『コダマの谷』

 良いという評判はよくきくけれど、雑誌で見かけるかぎり、入江亜季は絵柄がちょっと苦手、と思っていた。

コダマの谷 王立大学騒乱劇 (ビームコミックス)

コダマの谷 王立大学騒乱劇 (ビームコミックス)

 ……ら、初期作品集にあたる『コダマの谷』のころは、むしろ大好きな類の絵柄とお話だった。さらっと力の抜けた絵で、アウトロー的な天才、出奔した王子、行動力のある貴族令嬢、ひと癖ある学長と教授たち! とくに舞台となる大学周辺は、昔の少女漫画のギムナジウムのような、神学生たちの集うカルチェ・ラタンのような、閉じられたひとつ世界のようで、すごくいい。
 でも後日談だけは描き下ろしなのか、絵柄がさいきんのものだった。骨格がかっちりしていて、リアルだけれどすこし古臭い。この絵柄だったら、本編にこんなにはまらなかったかもしれない(ただ、アーサーはウーナより背が伸びたのね、よかったね、とは思った)。