『西脇順三郎詩集』

 デパートの在庫本フェア(id:moony:20070731)で詩集を購入してから、西脇順三郎にがぜん夢中。

 黄色い菫が咲く頃の昔
 海豚は天にも海にも頭をもたげ
 尖った船に花が飾られ
 ディオニソスは夢みつつ航海する
 模様のある皿の中で顔を洗つて
 宝石商人と一緒に地中海を渡つた
 その少年の名は忘れられた
 麗な忘却の朝

 昭和八年刊行の詩集に載っていたとは思えない、瑞々しく色鮮やかな詩! 西洋的なモチーフをつぎつぎ繰り出す、という点では去年はまった塚本邦雄と似通っているけれど、あちらが月と闇、夜にしか咲かない花なら、こちらは太陽と埃と通り雨、南欧のもぎとったばかりの果物のイメージ。
 かと思えば「旅人かえらず」の《あけてある窓の淋しき》なんて、まるで枕草子みたいだ。
「ヴィーナス祭の前晩」のリフレインがお気に入りで、ここ数日、ついついくちずさまずにはいられません。

 明日は恋なき者に恋あれ 明日は恋ある者にも恋あれ