なにかがなかにいる

 ……気配を感じるんだよね、二三日まえから。と呟いたIくんの顔が暗かったので、なにか稲川淳二的な納涼企画のはじまりかと思った。そうではなくて、と示されたのがIくんの部屋のそとのメーターボックス。稼動音のほかになにか音がする。ぴよぴよ、こつんこつん。
 これはこれは。
 たしかにいますねえ。
 ごくちいさな隙間から入り込んで、巣作り、産卵、孵化とこなした親鳥がいたみたい。ボックスは鍵がかけられているので開けられず。
 それにしても外気でさえこんなに暑いのに、なかはもっと暑いんじゃないの、と話していたら、夕方になって、…………ぴよ……、……こつ…………、くらいになり、夜にはしん、とした。
「まさか、なかで焼きとりに?」
「どっちかというと蒸しどりでは?」
 翌日電力会社に連絡したところ、一時間ほどで保安スタッフがすっとんできてくれたそうです。連絡の際の口上が「メーターボックスのなかから断続的に異音がするんです」という内容だったのでそのタイムだったのかも、とはIくんの弁。以下は私が不在時のできごとなのですべて伝聞。
 なかにいるのが鳥だとすぐに気づいた電力会社のひとは、手馴れたそぶりで鍵をあけ巣を撤去してくれたとか。
 ボックスを開いたとたん、雀*1が三匹、飛び出していったとか。
 巣に卵がなくてよかったですね、法律では卵のある巣は撤去できないことになっているんですよ、と電力会社のひとに教わった、とかとか。
 そんな場所に卵があるのに移動させられないのでは、じりじりした気分ですごす夏だろうなあ。と想像するだにぐったり。
 小鳥たちも、いまごろどこかに安住の地を見つけていればいいのだけれど。

*1:Iくんのいうことなのでほんとうに雀だったかはちびっとあやしいと思う