『エコール』

 原題は"INNOCENCE"というらしい。舞台は邦題のとおりの「学校」で、塀に囲まれた森のなかに、五つの寮と、中央にバレエ室と生物教室のある学び舎がひとつ。
 寮には六歳から十二歳まで七人の少女が住んでいて、新入りの少女は素裸のまま柩に入れられ寮にやってくる。少女たちが身につけるのは色違いのリボン、最年少は赤でつぎは橙、黄、緑、青、紺、最年長は紫。制服はリボンの七色を加色混合したような白一色(だいたい、主人公がイリス、虹の女神のなまえだ)。少女たちはともに森のなかで歌をうたい、池で泳ぎ、バレエを踊ってすごすけれど、夜、消灯のすこしまえ、森の小径の灯りがともるのを合図に、紫リボンの少女だけがどこかへと出かける……。
 さいきん読んだ『女学校と女学生』(asin:4121018842)のなかに「女学生とは制度化された思春期」というようなフレーズがあり、そうか女学生はアドゥレセンスが本分なのかと思ったばかりなのだけれど、この「学校」の少女たちは思春期未満、初潮すら迎えていない。夜な夜な催される地下の秘密劇場での公演、白い蝶々の羽根のチュチュ。永遠の少女そのものみたいななまえをもつ「アリス」だけが、禁じられた塀を乗り越えて、その後のゆくえはだれもしらない。リボンをはずした少女たちを運び出す、産道のような地下鉄。
 道具立てはばっちり、謎解きなんてほとんどない、と、いくらでも耽美にできるはずなのに、まず主人公の初めてうつる顔がびっくりするほどかわいくない、むしろホラーかと思ったくらいこわくてびっくり。赤リボンたちを演じる、少女というより幼女たちは、たぶん自分が演技をしている意識がなくて、カメラを向けられていてもぶらぶら立っていて、へんに現実感があった。それがイノセンスということかしら。ちがうか。
 紫リボンのビアンカが、観客のだれかの忘れ物の片方だけの手袋を、こっそりはめて自分の脚に触れるところ、両性具有の生き物がうまれてしまったようで、すこしどきどきした。
 バレエ教師役のマリオン・コティヤールはどこかで観た顔、と思ったら『ビッグ・フィッシュ』に出ていたらしい。よくよくおとぎばなし的な作品が似合うのだなあ。

エコール [DVD]

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