『薬指の標本』

 小川洋子の同名短編小説を原作とするフランス映画。小説のほうが大好きだったのに、ひとに奨めようにも、新潮文庫版(asin:4101215219)は長らく入手しづらい状態だったので(十年もまえの本だものね)、日本公開と併せて原作本が世間に広く流通したのでとてもうれしかった。好きな小説の映画化で、あんなに手放しにうれしかったことなんて、きっとほかになかった。
 その映画本編をやっと観てみたら、とても原作に忠実で驚いた。といっても、映画オリジナルの、主人公イリス(またしてもイリス!*1 『ホテル・アイリス』?)とホテルの部屋をシェアする船員とのエピソードなんて、そのまま映画一本できそうなくらい魅力的なのに、ふしぎにもとの筋書きになじんで、違和感がなかった。
 映画らしい表現で、いいな、と思ったのは、旧女子寮にある共同浴場がアラビアの夜を思わせるタイル張りで、金の蝶々の絵が描かれているところ(小説のなかにそんな描写があったら、いくら小川洋子の小説でも、くどい、と感じたろう)。そして、標本技術士に靴を贈られてから、イリスの服装がどんどん女っぽく色っぽく、なにより贈られた靴の深紅色に似合う色彩に変化していくさま。
 靴だとか手袋だとかって、どうして洋服や帽子よりも、いちだんとフェティッシュなのだろう。ひとのからだの一部のかたちをなしているからだろうか。
 http://www.kusuriyubi-movie.com/

薬指の標本 SPECIAL EDITION [DVD]

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*1:id:moony:20070821