『月ぞ悪魔』

「博物教室附属標本室」だの「国際秘密見世物協会」だの「万国探検家協会」だの、なぜだか心惹かれる漢字の羅列。この世界にまだ人工衛星Google Earthもなく、かわりに秘境や未踏の地や未だ学名のつけられていない動植物が確かにあった時代、前世紀も中ごろの物語。
新青年』の作品群と、ジュール・ヴェルヌの著作と、それぞれの俤を併せ持つ短編集で、たいへん好みな雰囲気でした。ギアナ高原に不時着した水上飛行艇(ハイドロプレーン)、コンスタンチノープルの妖婆、外蒙古ゴビ砂漠『竜の墓』より届けられた蝶!

 いのちをたもつのも、いのちをほろぼすのも、どちらもたのしいあそびだったら、ほろぼすほうをえらんだからって、どうしてそれがざいあくかしら?

 著者の香山滋は『ゴジラ』の作者としても有名なそうですが、とりあえず、「野趣溢れる風景のなかの全裸の美女」というシチュエイションがとてもお好きみたいで、どの短編にもたいていそういうシーンが出てきます。山田章博による装画も、まさしくそういう内容。原稿を読んだ山田画伯がそれ以外描けなかったのだとしても、むりもないと首肯けるわ……。

月ぞ悪魔 (ミステリ名作館)

月ぞ悪魔 (ミステリ名作館)