『ロビンソン・クルーソー』

 鹿島茂もかかわっている『文学全集を立ち上げる』(ISBN:4163684204)を読んでいたら、あれはいちおう読んでおかないと、と思うような書名がいくつかあって、これもそのひとつだった。読んでよかったです。おもしろかったし、これから海洋漂流譚を読むのに指標になりそう。
 ロビンソン・クルーソーって二十八年も無人島にいたのね。ページをめくると、いきなり数年、十数年レヴェルで時間が飛んでいるのでびっくりします。一枚の板をつくるのに数日がかりだったり、数年かけて島の気候について観察して、農作業の計画を立てたりと、壮大なお話。「若者は失敗することではなく後悔することを恐れる」というような一節もあってああ痛い痛い。
 ロビンソンが奴隷貿易に関わっていることや、現地人を野蛮な人喰い人種と決めつけているのは、まあ、あの時代のお話だもの、現代の見地からぶぅぶぅいってもしかたないところ。
 でも、フライデーの部族で奉じられている信仰について、ロビンソンがそんなのはでたらめだといって、キリスト教を布教するところとか、もしカトリック教徒に見つかったら、助けてもらうどころか殺されてしまうのではないかと恐れるところ(ロビンソンはプロテスタントなので!)とか、いま読むと滑稽だなあと思ったけれど、もしかしてこれ、おなじ人間を食べてしまう人喰い人種も、キリスト教内での新教旧教の争いも一緒だということなのかしら。
 どうなのでしょう。
 ……ところで、このての漂流ものでいちばんわくわくするのは、難破した船から運び出した物資のリスト、すこしだけの食糧やちょっぴりの武器で、さあ、これからどう按配しようか、という道具立ての部分だと思うんだけど、これって私だけ? TDLの『スイスファミリー・ツリーハウス』なんて、うはうはのアトラクションなんですけれども。
 でも、そういう部分でわくわくすると公言しているひとを、自分のほかに知らないので、やはりマイナーな嗜好なのかしら。しかし、どうにも仲間の匂いする、とひそかに睨んでいるのは、宮崎駿です。『天空の城ラピュタ』の主題歌に、「ひときれのパン ナイフ ランプ かばんにつめこんで」という歌詞を書くひとは、ロビンソンが難破船のなかから見つけ出す火薬の樽や大工道具の記述に胸を躍らせたことがあるのではないかな、と夢想するのよ。

ロビンソン・クルーソー (福音館文庫 古典童話)

ロビンソン・クルーソー (福音館文庫 古典童話)