『抒情の奇妙な冒険』

 愛してやまない笹公人の最新作。

抒情の奇妙な冒険 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

抒情の奇妙な冒険 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

 スタンドがつかえそうなタイトルで、レーベルがハヤカワSFシリーズJコレクションで、挿絵がとり・みきで、いったいだれがこれを短歌集と思うだろうか。地元の書店では思いっきりミステリの棚に並んでいて、探すのに苦労したわのよさ。
 いつもの念力ゆんゆんな歌を想像して読み始めたらすこし趣が違って、たとえば笹公人の歌といえば夥しい固有名詞の羅列が巻き起こす埃のように軽く遠い「昭和」の匂いが特徴のひとつだけれど、この歌、

 色褪せたピンク・レディーのポスターが少女の帰りを待っている部屋

 そのままですでにまっとうに笹公人らしい歌なのに、「拉致事件」という添え書きと併せて読むと、なんて重くて、そして「今」の歌だろう。
 新鮮でした。
 いっぽうで、

 流星にさらわれたのか 僕たちの学園祭の夜の記憶は

 という、この歌も好き。このひとの詠む夜の学校が好きなんだと思う。校庭の片隅に木造の旧校舎が佇んでいて、放課後、ひみつの集会が行われているのだ、きっと。