『宮廷画家ゴヤは見た』
公式サイトにある惹句は、
「それは、立ち入り禁止の、愛。」
なのだけれど、
愛? どこが?
といいたくなる内容でした。
でも、とてもおもしろかった。
十八世紀、スペイン。豪商の娘イネスと神父ロレンソ。画家ゴヤの絵のモデルであるふたりが異端審問所の牢獄の奥深くで出会い、そして……。というようなおはなし。
肉欲に負け、拷問に屈し、いちどは返り咲きながらも、最期にはふたたび敗れ去るというロレンソの負けっぱなし人生をハビエル・バルデムが怪演。運命に玩ばれた少女イネスと、その娘アリシアをナタリー・ポートマンが一人二役で好演。
(あの『レオン』のマチルダがユダヤ教徒の容疑で捕まる娘さんを演じるのかあ、と思って調べてみたら、ナタリーはイスラエル生まれなんですね)
ステラン・スカルスガルド演じるゴヤは狂言回しといった趣。
で、イネスとロレンソのふたりの陰鬱で罪深い絡みのほかにも、タイトルにあるとおりゴヤは宮廷画家だから、スペイン王室の人びととのかかわりが映画のなかに出てくるわけですが、これが可笑しかった。
肖像画のお披露目の際、モデルの王妃マリア・ルイサ・デ・パルマが、自分が美しく描かれていないのが気に入らなくて、帰っちゃうところとか。
スペイン王カルロス4世がゴヤに聴かせるヴァイオリン演奏があまりにもへたっぴで、好意で演奏しているのか、それともなにか拷問の一種なのか、はてしなくなぞなところとか。
ルイ16世の訃報に触れ、気落ちするカルロス4世の退場の場面のBGMが葬送行進曲だったとか。(コントかと思った)
そして革命後、フランスではナポレオンの時代となるわけですが、ちらっと映ったフランス軍高官たちの軍服が絢爛豪華でかっこいいこと。そういえば池田理代子はオスカルさまの軍服をデザインするのに、敢えて時代考証に反して帝政期のものを参考にしたと小耳に挟んだことがあるけれど、そうねえ、あれだけかっこよければしょうがないわよねえ、と、なっとくのうつくしさでした。
いっぽう、バグパイプの音とともに現れるイギリス軍のみなさんの、国旗を見ずともどこの国の兵隊なのかよくわかるところも、なかなか。(よく考えるとこれはすごいだことだなあ。ほかに、そんな認知度の高い軍服ってあるかしら)
高校のころ、世界史のこの時間のあたりはたぶん寝ていたので新鮮な驚きでいっぱいになりながら観ていたけれど、歴史に詳しいひとやご当地のひとなら、にやにやしたり、膝を打ったりしながら観るところなのかもしれません。とくにマリア・ルイサは悪妻で有名らしいので、日本でいうとなんなのだろう、源平合戦のころのものがたりで北条政子が登場するような? あるいは室町時代の日野富子? 「来たー!」って感じ?
浅学なので観終えてから調べたこと、こまごまと。
カルロス4世とルイ16世がいとこなのはお母さんが姉妹だから!(ポーランド王兼ザクセン選帝侯アウグスト3世の娘マリーア・アマリア・デ・サホニアとマリー=ジョゼフ・ド・サクス)
ナポレオン兄ホセ1世のつぎのスペイン王はカルロス4世の子フェルナンド7世!(初めての即位後、退位を迫られたが、復位する)
……とまあ、そんな歴史絵巻のあいまあいまに、ゴヤの絵の数々を音楽にのせてもりもり観られる、飽きない映画です。
http://www.goya-mita.com/