コーネル装の古書のような

 埼玉近代美術館にて企画展「アーツ・アンド・クラフツ{イギリス→アメリカ}」*1
「ところで、アート&クラフトって、なんなの?」
 と、美術館のある公園に足を踏み入れたところでIくんに訊かれる。えええ。そんな、いまさら、面と向かって訊かれましても。
 アート&クラフトってじつは私も「あのへんの、あれ」というくらいしかわからなくて、あとは、箱根の寄木細工や鎌倉彫りの文箱や、なぜか日本の民芸品が連想されたり、アーティストとアルティザンだとかことば遊びのようになってしまったり。
「……まあ、ようするに産業革命以後だからこそ興ったムーヴメントだと思うわよ。人類が大量生産を経験したあとじゃないと生まれ得なかったってこと」
 苦し紛れに答えると、ふーん、という、いちおう納得したような返事。これは魔法のフレーズだわねと思ったことでした。「○○以降だからこそ興ったムーヴメント」! 「911」だとか「ホロコースト」だとか、適宜入れ替えると万能です。*2
 さて、アート&クラフトといえばウィリアム・モリスですが、いかにもモリス! だと思っていた壁紙がじつは別人ジョン・ヘンリー・ダールによるデザインだとわかり、興味ぶかかったです。
 この企画展のパンフレットがちょっと凝っていて、モリスふうの柄にコーネル装の古書のようなデザイン。こんな本、展示品のなかにあったかしらと思ったら、これもジョン・ヘンリー・ダールの壁紙をアレンジしたものだそう。コラージュの素材にうってつけ。
 夥しいテキスタイルの展示のあとは家具群、とくに椅子の展示。チャールズ・レニー・マッキントッシュのあの有名な細長い椅子は「ヒルハウス」という建物のベッドルームのためにデザインされたとか。「もし家を新築するならどの椅子を寝室に置くう?」と囀りながら鑑賞しました。
 帰宅後、さっそくパンフレットを手帖カヴァーにリメイク。角革も再現! ハトロン紙でつつんで。……つまりこの、うつくしい種々のものに囲まれて暮らしたいという欲求が巻き起こした運動だったのねと、こまごま作業しつつ、納得したことでした。

*1:http://www.momas.jp/3.htm

*2:あんまり使いすぎると「サザンの力は認めざるをえないよね」風味になるので注意が必要です。