フリーダム

 主人の英会話の先生と、その恋人さんと、私たち夫婦という、なぞの顔ぶれでダブル・ランチ・デート。
 先生はコントのなかの誇張されたガイジンさんそのもののようなひとで、終始テンションが高く、大きな声と身振り手振りつきで話すので、私のヒアリングレベルでもなんとか理解できる。わかりやすいようにと気を遣ってくれているのかな、やさしいなあ、と思っていると、「いつもこんな感じ。カフェで他のお客さんに『うるさい』って言われるし」「うん。冬でもハーフパンツだし」と主人と恋人さんにくちぐちに断言された。
 2歳くらいの赤ちゃんが、おみせのなかをぼうけん、といった感じで歩きまわっていて、私たちのテーブルにちかづいてきたのだけれど、「ハーイ」と先生が手を振ったら(というこの動作も、もちろん通常の3倍くらいのオーバーさで、表情筋もフル稼働なわけですよ)、2秒間まじまじと先生を見て、それから後ずさりをはじめた。
 後ずさりって、「遠ざかること」と「目を離さないこと」を両立する、高度な動作だよね。というか山で熊に遭遇したときの動作だよね。2歳児にして本能的に「こいつはふだん接する生き物と違う」と感じ取ったのだろう……人間のなかに眠る野性を感じさせる光景……。と3人で話し合っているあいだに先生はべつのテーブルにいた異国のひとたちと話していて、「あのひとたちサンディエゴ出身なんだって。日本にはもう30年もいるんだって」と報告してくれた。
「まえ、カナダのひとに話しかけてたときは、『アメリカの隣だね』って言って握手してたんだよ」とは、主人の弁。
 フリーダムすぎる! さすが自由の女神の国のひと。