「尼門跡寺院の世界」展

 きのう日記に書いた展覧会を観に行きました。
 ひと言でいうと、あれは「かわいい展」です。
 阿修羅展*1で混んでいるかも? と想像していた上野は、ルーブル美術館展で混んでいました。八十分待ちの行列を尻目に東京芸術大学美術館へ。
 まず最初に目に付く展示は法華寺の行事「雛会式」のもの。本尊・十一面観音菩薩像の前に、善財童子像数十体が並べられ、「散華」と呼ばれる花びらのかたちの紙片に物語や草花の絵を書いたものが撒かれます。「雛会」のなまえの由来は「ひいな」だったとか、善財童子像は以前は着せ替え人形で、毎年尼僧が新調したとか。
 つまり、それは「かわいいものまつり」ですね!?
 と直感的に思ったのですが、これはそれほど的外れでもなかったみたい。おなじく法華寺の御守犬は、線香の灰の粘土から尼僧たちがつくるちいさなちいさな犬のかたちのお守りです。これって、尼僧がシスターで犬のお守りがマリア像だったら、『ku:nel』あたりが取材にくるんじゃないかしら?
 展示を見るまえは、尼門跡の生活というのは信仰ひとすじで禁欲的だったのではないかと思っていたわけですが、予想は大はずれ。尼僧の描いた絵画に、天皇親王が詩歌や文章を書き足した画賛なんて、キャッキャッという笑いのさんざめきが聞こえてきそう。大通文智尼を描いた像は腹ちがいの弟・真敬法親王の手になるものですが、なんだかとってもチャーミング。
 寺院とはいえ門跡寺院は皇女たちの住まいであったので、雅やかな御所文化のサロンとしての役割を担うのも彼女たちの勤めのうちだったのでした。
「かわいい」の極めつけは、まだ稚いうちに出家する皇女たちのために、父天皇が用意させた玩具や人形や調度品の数々。
 皇女たちの遊びであり習い事の一環でもあったろうカルタは題材がさまざまで、源氏物語あり、花あり、鳥あり。雅楽の衣装を纏った舞人の絵札に、舞楽の題名を書いた読み札の舞楽カルタなんてめずらしいものもありました。
 人形遊びの調度品は、私の七段飾り雛人形のそれなんて足元にも及ばない精緻さと豪奢さ。お人形さん用のちいさな百人一首まであるのです!
 十二支の動物たちを擬人化した人形は、ふつうに、これが売っていたら私は買うわ! と思うほどかわいらしいもの。
 展覧会の見学者はほとんどが年配の女性でしたが、このエリアの熱気はむんむんで、みんなそれぞれ百人一首のお気に入りの和歌の絵札がどんな絵柄なのかを探したり、貝合せの貝の絵柄が源氏物語のどの場面なのか当てっこしたり。しらないひととも「よくできているわねえ」「かわいいですねえ」とささやきあって、少女に戻ったように過ごしてきました。
 おばさまやおばあさま方のご主人も付き合っていらしたけれど、あんなにかわいいものまみれの展覧会で、男性は楽しかったのかしら。オトメンだったら楽しいかもね、という展覧会でした。

*1:先週終了していました。