『獣の奏者』

 例によって、BGMがわりにETVをつけっぱなしの生活で、さいきんとくに気にかかっていたのが、『獣の奏者エリン』です。
 子どもむけなのに、どことなく暗い雰囲気の作品だとはまえまえから思っていたのですが、回が進むにつれて、その雰囲気がますます顕著に。スキマスイッチによるOP曲は、スキマスイッチぽくない暗い詞と曲調で、元ちとせが歌うその別アレンジは、もはやなにかの呪術の儀式のための音楽のよう。ヒロインはぼそぼそと低い声で話してヒロインぽくないし、女王の甥が独身で優男で石田彰だなんて、悪巧みをしないわけがない! この世界はどういう設定なんだろうと気になって、まず『闘蛇編』を購入。

獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)

獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)

 で、止まらなくなって『王獣編』も一気に読破。
獣の奏者 2王獣編 (講談社文庫)

獣の奏者 2王獣編 (講談社文庫)

 権力争いの話も建国秘話もおもしろいんだけれど、闘蛇や王獣といった想像上の動物たちの生態にかんする記述や、養蜂の描写などには、シートン動物記やファーブル昆虫記を読んだときの興奮を思い出しました。闘蛇にとりかこまれたエリンが母の死に際を思い出すところは、氷室冴子の『銀の海 金の大地』や荻原規子勾玉三部作の雰囲気。
 解説で北上次郎小野不由美の『十二国記』をひきあいに出していたけれど、「もとは子ども向けレーベルで出版されたのにおとなのおじさんの鑑賞にも堪えうる」というくくりなのかなあ。しかし、そう喧伝されて、いわゆるおじさん読者を獲得して以降の『十二国記』の停滞ぶりを見ていると、もう、そういうふれこみはどうだろう、と思います。
 で、原作を読み終えてからアニメを見て、「おとなし笛」って、「音無し笛」だったのね! と、いまさら、気づきました。獣たちをおとなしくさせるから「おとなし笛」なんだと思っていたわよのさ。はずかしー。
 あと、これはぜひ、絵と音つきで見てみたい! と期待していた「……わたしは、知らないのよ」というシーンが、あっさりした演出で流されていて、だいぶ残念でした。ひとの好い老女王、が秘めていたぞっとするような長いながい年月の不安を表していて、好きなせりふだったのです。