『ウィズ』

 あの『オズの魔法使い』を下敷きに、出演者の全てがアフリカンアメリカンというキャスティングで繰り広げられるミュージカル映画です。
 かかし役をなんとマイケル・ジャクソンが演じています。画面にうつっているあいだずっと、体がほんとうに藁でできている生き物のような動きをしていて、かわいらしかったです。
 ドロシー役は、もっと「なんと」なことに、ダイアナ・ロスです。ダ、ダイアナ・ロスってオールディーズのひとだよね……? 1978年のこの映画の撮影時にいくつなの……? というわけで、ドロシーは成人女性で学校教師という設定になっていました。
 話はかわるけれど、童話の白雪姫は、原作では王妃によって毒リンゴを食べさせられたとき十歳だったのだそうです(十歳にして、そのような嫉妬を買うほど美しかった、あるいは十歳の少女を殺したくなるほど王妃が美への評価に固執していたというのが、たいせつなポイントだと思うのね)。だから、ハイティーンくらいの年頃に設定されたディズニー映画の白雪姫は、年恰好のわりに頼りなく、警戒心のない人物になりはてているわけですが、このドロシーもやっぱり、妙齢の女性のはずなのに、少女のように小犬のトトをつねに抱きしめているので、幼いような、精神的に不安定なような印象を受けます。
 そんなドロシーやかかしさんたちが魔法使い「ウィズ」に願いを叶えてもらいに旅をするオズの国は、魔法の国に見立てて飾りつけられた、ニューヨークの遊園地や地下鉄や高層ビルの屋上です。特殊撮影かなにかで、クライスラービル(私、このビルが世界でいちばん美しいビルだと思うわ)が五本並んでいるように撮っている景色があって、とても幻想的なのです。
 ニューヨークが撮り方ひとつでこんなふうに見えるんだなあと興味深く思ったのですが、でも、これは『オズ』をすでに知っていて、その変奏のひとつとして楽しめる大人向けの趣向ですよね。子どもだったらトラウマになるのは必定という恐ろしげなシーンや、色っぽすぎるダンスシーンがたくさん。原作でドロシーとライオンが眠りこんでしまうケシ畑は、おもいっきり麻薬そのままのイメージに描かれていて、そういう不健全なところがおもしろいんだけれど、公開当時はそれが不評で興行的に大コケした映画だったようです。
 ドロシーたちが黄色い煉瓦の道のうえで歌う"Ease On The Road"が、小学生のころ、バカンス村でのサマーキャンプでみんなで踊った曲だったことに気づいてびっくりしました。二十年もまえに数日間だけ聴いた曲なのに、覚えているものだなあ。大人になって聴いてみると、いかにも踊るのにふさわしい歌詞でした。
(ちなみに、歌詞をとっぱらってきくと、「欽ちゃんの仮装大賞」の始めと終わりにみんなで手拍子している、あの曲でした。これにもびっくり!)

ウィズ [DVD]

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