『Dr.パルナサスの鏡』

 監督はテリー・ギリアム。主演のヒース・レジャーが撮影期間ちゅうに没したために、彼の役をジョニー・デップジュード・ロウコリン・ファレルらが"四人一役"で演じ、その出演料をヒースの遺児に寄付したという裏話のある作品です。私はもうヒースの遺作として観に行ったのだけれど、同行した友人は「ジョニーとジュードが共演している、キャスティングが豪華なわりに宣伝が地味な映画」という認識でいたので、せつなくなりました。まあ、CMとかでもジョニーたちのなまえのほうが大きかったもんね。
 原題は"The Imaginarium of Doctor Parnassus"、Dr.パルナサスと名乗る老人がその娘や侏儒とともに街を巡る二頭立ての馬車の移動式小劇場という、時代がかった装置のことです。これが、すてきなんだよねえ。Dr.パルナサスが昔むかし、世界の片隅で物語を紡ぎ続ける僧侶だったという設定も、なんということなはいのに、好きです。テリー・ギリアムの映画を観ると、「どうしてこのひとは私の好きなものを知っているのかなあ」と、いつもいつも、思います。ひとが、とうに好いていたことも気づかないでいたような、ささやかであたりまえのものたちを、魅力的に描くことに長けた監督なんでしょう。
 ヒースの演じる記憶喪失の青年トニーがDr.パルナサスの娘ヴァレンティナ(お人形さんのような風貌のリリー・コールがすばらしい!)に話しかけるときの振る舞いが、すごく自然にスキンシップ過剰なのですが、トニーの正体が子どものための慈善事業家だとわかると、あれ、子ども扱いしていただけなんじゃないの……と思えて可笑しくなってくるあたり、ヒースの演技のさじ加減が絶妙でした。世界は惜しい俳優を亡くしたものよねえ。
 この「子どものための慈善事業」がらみのシーンで流れる、オリエンタルな"It's a small world"のような、イノセントな曲の使い方が、シニカルで悪趣味で最高でした。飛び出す絵本のような、紙人形のようなエンディングもすてき! これよりすてきなエンドロールって観たことあったかなあと記憶をたどってみたけれど、『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』くらいしか思いつきませんでした。
 とまあ、テリー・ギリアムヒース・レジャーが好きならば観て損はない映画。ジョニー・デップジュード・ロウ好きは、どうだろう……。コリン・ファレル好きには勧められると思うんだけれど。
 ぜんぜん関係ないけれど、映画館で隣に座った、まったく見ず知らずの女性と、作品ちゅうの小ネタでうけるタイミングがいつも一緒だったので、映画が終わるくらいには、このひと、私の連れだったかしら……と錯覚するほどでした。