打たれ弱い

 きつけの試験でした。実技科目で、名古屋帯をお太鼓に結びます。
 教科書には、まず帯のたれ側を左側にして床において、手先を畳んで……というような手順が載っているので、教科書を見ずにそれが再現できるよう、家でも練習して憶えたのですが、いざ試験の説明を受けたら、
「結んでいる最中は見ませんから、できあがったら声をかけてください。そこから採点をはじめます」
 とのこと。! そ、そうか、過程が評価されるのは義務教育までか……いいかげん大人なんだから結果がすべてなのね。どうもこう、力を入れて事前練習すべきポイントを完全にはずした感じ。
 それでもどうにか手順通りに結んで、いざ採点を受ける段になったら、こちらをひと目見て、採点役の先生(系列の他の教室の先生)がもらしたことには、
「あら、おきものと帯と帯締め帯揚げの色のとりあわせがすてきですねえ」
 ええ、そこ? そこなの!? と、これまた意表をつかれましたが、そのあと、帯の位置が高いとか、帯締めの位置が真ん中よりずれているとか、いろいろと指摘されて、でも一応は及第点、といってもらえました。
 べつに資格がほしいわけじゃないけれど、試験を受けると、そういったこまごまとしたことを、いつもとは違う先生に指摘してもらえるので勉強になるなあと思いました。教室のいつもの先生は、ほめてのばすタイプ(そして生徒が気づかないうちに微修正しているタイプ)なので、ほかの先生に見てもらうのもいいものです。それに、そういう目標がないと、漫然と憶えるだけで、必死に暗記したり、しないものねえ。
 でも、受験するにあたって、ここずっとプレッシャーを感じていたみたいで、終わったあと、「ブリティッシュエロイカの毛糸を全色買ってモチーフを編み散らかしたい! そんなぜいたくをしてもいいくらい、私はがんばったはず!」というような気持ちが湧いてきて、こまりました。大人になって試験から遠ざかって、打たれ弱くなっていたみたいです。
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