『インセプション』

 おもしろかったです!
 観終えたあと、あれってこういう意味だよね? とだれかと話し合ったり、もういちど最初から通して観たくなるような、魂をいっとき持っていかれる、密度の濃い映画でした。エンディングロールの選曲も意味深。
バットマン ビギンズ』で「出番これだけ?」と思った渡辺謙成分(id:moony:20080812#p1)や、『ダークナイト』で「出番これだけ?」と思ったキリアン・マーフィ成分(id:moony:20080815#p1)が今回は充分に堪能でき、クリストファー・ノーランには、やっと借りを返してもらえたわね! という気持ちもあります。
 他人の夢に忍び込んでアイデアを“インセプション(植えつけ)”するというのが、おおまかなあらすじ。このミッションに取り組むチームのメンバーが、いつもスカーフの結び方が違って印象的なアリアドネや、シャンパンの飲みすぎで土砂降りの雨の夢を観るユスフ、ミッションのために航空会社をぽんと買ってしまうサイトー、夢のなかでちゃっかりアリアドネとキスをするアーサーなど、それぞれかわいらしいところがあってよかったです。
 チームが構築した嘘の夢のなかで、社長の御曹司役のキリアン・マーフィが、父親の金庫のなかに、子どものころ遊んだ風車を見つけるという、一見、父と息子の和解を表す感動的なシーンがあります。あれっ、でもこれって仕組まれたことだから感動するのとは違うような、と訝りつつ観ていると、チームのメンバーで凄腕の詐欺師であるイームスもキリアン・マーフィを見ながら親指を立てている……でもミッション成功を喜んでいるというより、やっぱり父子の和解にじんわり感動している表情。自分たちで仕組んだことなのに感動してどうする! とつっこみたくなるような、やや混乱したシーンがあって、でもその現実と夢の乱れっぷりがこの映画をよく表しているような気もしました。
 絵画から抜け出してきたか、彫刻が動き出したかのような美しいマリオン・コティヤールもすばらしい。でも絵画にしろ彫刻にしろ、その作品の名は『悪夢』だろうなあ。
 クリストファー・ノーランの映画って、とても重く苦しい喪失の体験がよく描かれるけれど、同時に、失うと苦しく悲しい、大切なもの、美しいものもまた描かれているわけで、そちらも印象的だと思いました。
 観終えたあと、開口一番に「いちばん好きなのはアーサーだわ」と同行した主人に伝えたところ「この映画を観終えていちばん最初に言うことじゃない」と断じられましたが、ごもっとも! しかしアーサーを演じたジョゼフ・ゴードン=レヴィットが気になるので、彼が主演の『(500)日のサマー』を観てみたいと思います。