『中村苑子句集』再読
中勘助『銀の匙』(id:moony:20100719#p1)の上製本は、いったん、諦めました。なまじ思い入れの強い本のために、満足のいく材料を揃えるためににお店行脚をしたら、この猛暑だと、行き倒れる……という懼れが生じたためです。
よく考えたら、上製本にするべき本がほかにあったので、まずそれに手をつけることに。
- 作者: 中村苑子,高橋順子
- 出版社/メーカー: 芸林書房
- 発売日: 2002/04
- メディア: 文庫
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この本を、自分でリペイントした棚(ニスなし)のうえに寝かせて置いておいたら、ペンキが剥がれてカヴァーにべっとりとはりついてしまい、カヴァーを捨てるはめになったという経緯があって、この本は、上製本にする必要性がほかより高いのでした。
というわけで、ひさびさに再読。
お花の句が印象深い俳人です。
星ばかり見ないで蓮が開くから
一度死ぬ再び桔梗となるために
雛菊に倦みて羊になりにけり
百合剪ってくれし少年尼僧めく
若き僧の和讃なまめく桃の花
「尼僧めく」って、禁欲的なんだか官能的なんだか、どっちかしらねー、と思えば、「若き僧の和讃なまめく」のような句もあるので、艶やかなほうのイメージなんでしょうねえ。
人のようで人でないなにか、の句も印象的で、
人の気配する雛の間を覗けり
屋根裏に昨日のわれと密会す
鍵穴を抜けてたましひ遊ぶ春
あるいは、水にまつわる句も、タナトスを感じさせてすてき。
海の中にも都のあるや桃洗ふ
短夜の水際に失せし男かな
音や水底は鐘鳴りひびき
それから、桃は、花も実も、よく登場します。
桃……。桃の柄の千代紙?! と、一瞬思ったのですが、それじゃ『銀の匙』の牡丹柄の千代紙捜しと同じ轍じゃ! と、ただちに却下。
夏蝶はおほむね白し汚れやすし
この句のイメージで、手持ちの紙や布を使って、どうにかできないものかと考えています。
それにしても、上製本のことを考えだしてから、手持ちの本を再読する機会が増えて、意外に楽しいです。これまで、自分の好きになったものやことの棚卸をしているようです。
本の形で売っているものを、裁断してスキャンして、電子データで持ち歩く……というようなひともいるご時世に、わざわざ製本するなんていうのは、この、好きという気持ちや思い入れだけがさせることだなあと思ったりもしました。