持ち歩きたい気があまり湧かない

 暑いので、さいきんは編み物をしていません。代わりに、こぎん刺しに挑戦しています。オリムパスの、このキットの図案を刺し終えたところです。

 紺地に白の刺繍だといかにも東北地方の民芸品だけれど、色づかいを変えるとまるで欧州の手芸品のよう。そして、最初は何本かの破線にすぎなかった刺繍が、いつしか模様として浮かび上がってくるのが快感です。
 しかしこのキットにはいまひとつなところもあって、まず、取っ手用の布が本体布と同じコングレスです。コングレスって、目の大きい平織り綿で、どう見ても「刺繍用の布」。刺しやすいけれども、バッグとか、ましてやバッグの取っ手に向いている風合いではないですね。そして、図案が本体の表面のみで、裏面はまったくの無地です。できあがった姿を想像してみても、持ち歩きたい気があまり湧かないというか、「バッグのかたちをしたサンプラー」という感じ。
 もっとも、「材料が足りなくなったらどうしよう」と心配のあまり、つい、きつきつに刺してしまった結果、なんと付属のこぎん糸を半分以上も残してしまったので、裏面に表と同じ柄を刺すだけの残り糸はあるのでした。この手のキットものでは、刺繍でも編み物でもいつもそう。たいていのキットには多めに糸が入っているんですけどね。
 そんなわけで、残り糸で裏面にも同じ柄を刺すか、ワンポイントのみにして、さらに余った糸で取っ手布にラインを刺すか、それとも取っ手にはもっと別な綿テープでも用意するか、思案ちゅうです。裏面にも刺繍をして、本体布をまんなかで断ってちいさめのランチョンマット二枚にしちゃう、というのがいちばん実用的な気もしてきました。
 こぎん刺しは津軽に伝わる刺し子の技法で、江戸時代、農民は木綿地の着物を着ることと着物に裏地をつけることを禁じられたことから、粗い麻の布地の目を塞ぎ糸で厚みを二重にするため生まれたのだそうです。模様にはそれぞれ名まえがあって、wikipedia*1で紹介されてるのは、「テコナ」が蝶々で「ベゴ」が牛、「マメッコ」が豆……そのほかに「ヤスコ」という模様の説明は「ヤスコさんが考案した」。だれなんだヤスコさん! そして、どんな模様なんだろう。気になりすぎます……。
 自分で生み出したお気に入りの模様を刺繍するというので、『乙嫁語り』の布支度のお話を思い出しました。
乙嫁語り 2巻 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)

乙嫁語り 2巻 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)

 この漫画の舞台は十九世紀後半の中央アジアですが、女の子の嫁入り道具のために、小さいころからどっさり衣類を準備していくというエピソードは二十世紀半ばのイタリアが舞台の『わたしの赤い自転車』(id:moony:20070927#p2)にもありました。針仕事は時空を超えるわねと思った次第です。