『借りぐらしのアリエッティ』

 メアリー・ノートンの“The Borrowers”の映画化作品は、ずいぶん以前に、外国のドラマだか映画だかを教育テレビで流しているのを観たことがあり、今回は二度目です。そちらは実写で、ふつうの人間の俳優が小人たちを演じた映像を、「人間役」の俳優の映像と合成したものでした。で、今回の『アリエッティ』。アニメーションの表現力はいいですね。小人たちの小ささも、人間の家のキッチンの荒野のような広大さも、違和感なく同居していました。絵画がわりにきれいな柄の切手を飾ったり、チェスの駒を彫刻に見立てる(ナイトはこのためにデザインされたみたいな造形だよねえ)という、ちいさい生き物の住まいのお約束もちゃんと描かれています。私も小人になって、ドールハウスのなかを歩きまわってみたり、豆電球を懐中電灯がわりにして探検してみたいと思いました。
 でもいちばん好きなシーンは、アリエッティが団子虫をボールにして遊ぶところです。自分があのサイズになってもしてみようと思わないけれど。そのほか、虫たちが印象的なシーンがいくつかありました。
 お話のほうはずいぶんこぢんまりしたもので、尺をあとニ十分長くして、もうひと山、なにか盛り上がりがあってもいいのでは、という印象でした。徹底的な悪意なんだか残酷な無邪気さなんだか、ハルさんの行動の理由について説明してほしかったなあ。
 あと、さいきんのジブリの主役級の男の子は、体温が低そうな子ばかりですね。『千と千尋の神隠し』のハクには、ジブリもこんなタイプを描くんだ! とびっくりしつつ大歓迎したのですが、以降、ハウルとか『ゲド戦記』のアレンとか今回の翔とか、涼やかな美少年美青年が続いたので(『ポニョ』の宗介は……美少年じゃないけれど、どこか老成しているしなあ)、いささか食傷気味。パズーのような暑苦しそうな子を、もっと! と思います。「けなげな女の子」しか描けないのは知っているので、せめて男の子のヴァリエーションだけでも……。
 坊やキリクやマルクルの、あのかわいい声の神木隆之介くんは、もう記憶と記録のなかにしかいないのねえ、と思うとなにやらさびしい気がしました。息子が第二次性徴を迎えたお母さんって、こんな気持ちなんでしょうかね。