水の都における先人たちの偉大なる足跡

昨夜の漏水(id:moony:20100921#p2)について、心配顔の添乗員さんに、
「まったく、いくら《水の都ヴェネツィア》だからって、そんなところで水が溢れなくてもいいですよね!」
 と主人がお寒いヴェネツィアン・ジョークをもらすのを聞く。そんなふうに始まった朝でした。


 貸切のクルーザーに乗って本島沿いをぐるりとなぞり、サン・マルコ広場方面に上陸。ドゥカーレ宮殿の見学です。ため息橋、ってなまえはロマンティックなのに実態は殺伐。と思ったけれども、そういえばヴェネツィア自体が商人の街だし、宮殿とはいっても王様ではなくドゥーチェの住まいだし、いわゆるロマンティックさとは縁遠い場所なのですよねえ。
(まあ、でも、東方貿易はある意味、すっごくロマンか) 
 おりしも満月に近い日のことで、広場はあちらこちら、浸水して水溜まりができていました。なるほど、これは「近々に水没する」が冗談に聞こえない……。
 世界最古の喫茶店カフェ・フローリアンにてお茶を。

 生演奏されている曲は、よく聴いたら『瀬戸の花嫁』でした。「小さな船に乗ってお嫁に行くんだよ! ヴェネツィア的でしょ?!」と導入を進言したひとが、かつていたのかしらね。

 ディズニーストアのウィンドウもおとなっぽい。

 リアルト橋の上から。おおぅ、私、この景色を以前たしかに写真で見たことありますよ?! ここで撮影したものだったのね!!
 この橋のいちばん上にあるヴェネツィアン・グラスのアクセサリーのお店が、日本人好みの微妙な色合いとモダンかつ繊細なデザインで、ほかのお店とは一線を画す、すてきな品ぞろえでした。ここでおみやげを購入。
 べつのガラス工房では、自分用にブローチを買い求めました。和装のときに、帯留として使えるものがほしいんだけれど、しかし現地人の店員さんに理解してもらえるだろうかと思いつつ英語で話したら、オッケーオッケー、キモノのオビベルトのここにつけるんでしょ?! これくらいの大きさのがおすすめ!! と、あっさりレコメンドされたり。みーんな同じこと言ってブローチを買っていったんだろうなあ、日本のおばさま方。先人たちの大いなる足跡が感じられる出来事でした。
 さて。本日のメインイヴェント、ゴンドラに乗ります。

 異郷への旅に漕ぎだす冒険者か、故郷を追われる亡国の王族の末裔になったような気分ですよ!

 ほかのゴンドラの漕ぎ手のおじさんは、お客に漕がしたり、謡ったり、小道具をしこんでいたり、にぎやかな感じなのですが、われわれ夫婦の乗ったゴンドラのおじさんは、「放っておくから勝手にしっぽりおやんなさい派」でした。

 ……ゴンドラから眺めるヴェネツィアって、なんだか、どこか遺跡めいているのでした。まだひとが住んでいる街並みなのに。さて、じゃあ、ただの古い建物と遺跡との違いって、なに? と考えてみたのだけれど、遺跡って、人の手になる建築、人工物。それが時間と、人為的ではないもの、つまり自然に侵食されると遺跡的な趣を帯びるのかしら。
 まだまだ観足りないのに、これでヴェネツィアとはさよならです。もっと滞在時間の長い日程にすればよかった……。足早に通り過ぎたヴェネツィアは、ずっと街歩きしていたいというより、逍遥のうちにどこかの街角で、ひとごみに溶け込むようにふっと消え行って、そのまま行方知れずになってしまいたくなるような、なんともうっとりと夢見がちにさせてくれる街でした。