『ピーター・パン』

 2003年に制作された実写版です。公開当時は、ピーター役の男の子の美少年ぶりがおもに喧伝されていて、私は美少年に興味がないので、劇場に足を運ぶまでもない、と判断した記憶があります。
 で、CSで放送されたのを今回初めて観たのだけれど、美中年がいた!! フック船長とダーリング氏の一人二役ジェイソン・アイザックスです。そうと教えてくれたら、もっと早く観ていたのに……。
 フック船長とダーリング氏をひとりの俳優が演じるというのは原作者のジェームス・バリの指示による舞台以来の伝統なのだそうで、このふたりの登場人物がとても重要だということがわかります。フック船長のファーストネームなんて、バリとおなじ「ジェームス」だもの。大人にならないピーターの対比としての、ふたりの男。ひとりはロンドンに、もうひとりはネバーランドに。
 秩序や倫理や如才ない振る舞いが求められる大人社会のロンドンでのダーリング氏の奮闘(そんな彼も、かつてきらきらしたものを持っていて、いまはそれをしまいこんでいるだけということがダーリング夫人によって証言されます)も味わい深いのだけれど、やっぱり、子どもばかりの世界で、ゆいいつ大人の狡猾さを備えているフック船長がねえ! むだにセクシーなのですよ! とくいのハープシコードも披露しちゃうのよ! ウェンディは女の子だからピーターよりさきに大人になっちゃって、そんなフック船長(イートン校出身)の魅力にすこし惹かれてしまうのね。ティンカーベルに四角関係を仄めかすのようなセリフもあり、いずれウェンディが夫を持つことをピーターに告げて絶望させたり、フック船長ったら、大人の男の武器を使いまくり!
(フックの海賊団の部下たちは、ウェンディの語るおとぎ話に、迷子の男の子たち同様うっとり聞き入って、「大人」ではないことが描かれているのです)
 フック船長=ダーリング氏と考えると、父とボーイフレンドのあいだで揺れる女の子ウェンディの物語でもあり、興味深ったです。自分が海賊になったら……と夢想して二つ名を持っているというのは、原作なら弟のジョンのエピソードなのですが、映画ではウェンディが「血塗れのジル」という名を考えていたという改変があり、空想好きなところが強調されていて、ただかわいらしいだけの女の子ではない、感情移入できる性格づけになっていました。
 コティングリーの妖精写真事件を連想させるような妖精たちのダンスシーンや、アジアンビューティが揃えられた入江の人魚たちなど、ヴィジュアルもすてきでした。ウェンディの弟マイケルのテディベアの扱われ方もきめ細かったです。
 去年あたりから『ウィズ』*1や『アリス・イン・ワンダーランド*2などを観て、有名な児童文学を映画化する意義、難しさについてぼんやり考えていたけれど、この実写版は、それなりに現代風の味付けもしたうえで原作に対しても誠実でもある、かなりの良作だと感じました。これは私が子どもの頃に、観たかったなあ。でもそうしたらきっと、海賊に憧れていたことでしょう。

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