純度の高い悪意と、ひっそりとした楽しみ

 長かったバットマンまつりも最終日。クリストファー・ノーランによるシリーズの第二作目、『ダークナイト』です。

ダークナイト [Blu-ray]

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 これも三年まえ(id:moony:20080815#p1)に観て以来の再鑑賞です。あいかわらず濃密さに圧倒されたのですが、ただ一点だけ、今回初めて気付いたことが。
 映画の中盤に、警察の護送車が街路を走行していると、放火された車両が燃える障害物となって進路を塞いでいて、護送車が当初のルートから外れざるを得ない、というシーンがあります。なにものか(って、観客にも映画のなかの人物たちにも、まあ、あいつらの仕業だね……と目星はつくのだけれど)が邪魔しようとしていて、このあとさらなるトラブルが発生するだろうと予感させる、示唆的な場面です。
 で、このとき燃えている車両というのが、消防車なのね。
 ただ障害物を据えるだけや、その障害物に火をつけるだけでも物騒なのに、数多ある車種のなかから、よりによって消防車を選んで燃やす、というあたりが、犯人の、純度の高い悪意を、ことばもなく、しかしことばより雄弁に宣言しているようで、今回、観ていていちばん怖かったです。
 映画をつくるひとって、どうしてこんなことを思いつくんだろう……その発想力が想像を絶するわ!
 待ち遠しい第三作は、ぽつぽつ小耳にはさんだ噂によると、おなじノーラン作品の『インセプション』(id:moony:20100729#p1)でかっこよかったトム・ハーディや、マリオン・コティヤールも出演するそうです。
ダークナイト』初見の際の日記を読み返したところ、

「21世紀で、いまのところいちばんおもしろい映画を観てしまったわ」

 と書いてあるので、あれから、「21世紀でいちばんおもしろい」は私のなかで更新されたのかなと考えてみたのですが、これ、というものが見つかりません。むしろ、『ダークナイト』を観るために『バットマン ビギンズ』を観たところから始まって、その後『ダークナイト』、『インセプション』を観て、そしてバットマンの次回作を待っているいまこのときを含めた、ゆるやかでおおきなくくりの時間のなかを漂っていることが、じつは、いちばんおもしろい映画体験なのかもしれないと思いました。この数年がかりの流れが楽しくおもしろく感じられて、どこからどこまでがいちばん、と線引きできずにいます。なにか一個の映画を楽しむ時間というのは、観ているあいだそのときだけではなくて、観たあとや観るまえ、さらには、おなじ監督やおなじ出演者の別のしごとに触れるときでさえ、含まれるのかもしれません。
 そんなことを、バットマン映画全六作再鑑賞マラソンをして、考えたのです。それとも加齢のせいで、時間の捉え方がざっくりおおまかになってきたのかしらね。まあ、とりあえずいまは、新作の公開を楽しみに待っています。つぎのつぎの季節のきものを仕立てに出して、袖を通せる時季が訪れるのを待っているような、ひっそりとした楽しみ。待つ時間をすごすことは、楽しくてぜいたくなことだなあ。