のこぎりと誤解と『マイティ・ソー』

 大工道具を武器にしてたたかう主人公。しかもタイトルに含まれる単語が『ソー』だというので、
「ああsawなのね、のこぎり?」
 と、かってになっとくしていました。流血がおおそうなヒーローだけど、電力に頼ってないだけチェーンソー使用のジェイソンより正義っぽいということなのかな、と。
 そしたらsawじゃなくてThorじゃんね! 「トールのハンマー」じゃん! はやくそういってよ!
 ……というわけで、『マイティ・ソー』を観ました。

マイティ・ソー ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]

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 アスガルドを治めるのがオーディンで、その息子がソー、ロキがその弟です。
 オーディンの後継者であったソーは蛮勇の振る舞いによってアスガルドを放逐され、現代のアメリカに降り立ちます。愛用の武器であるハンマー(ムジョルニア)を操る力まで失ってしょぼくれるソー。ナタリー・ポートマン演じる天文物理学者ジェーンとの生活のなかで彼の内面には変化が訪れます。しかし敵の勢力もまた地球へやってきて……というのが、あらすじです。
 全体の印象としては、なんだか異様にチャーミングな映画でした。とくにソーがかわいいんだよね。地球でも、さいしょは傲慢で野蛮で考え無しな態度なんだけど、ジェーンに叱られたらちゃんと振る舞いを改めるあたり、育ちの良さがにじみ出ている感じ。過剰にマッチョな見た目でそんなすなおさも兼ね備えていたら、ギャップでジェーンがコロッといってしまうのはすごくよくわかる。
 ソーの友人たちもまたアスガルドからアメリカにやってきて、ソーの居場所を見つけてにこにこ手を振っているシーンもシュールでかわいくて大笑いしました。研究機材がS.H.I.E.L.D.に押収されたときに、データじゃなくてiPodのなかの曲についてくよくよしている助手のダーシーもかわいい……。みんなかわいいじゃないか!
 しかしいっしょに観ていた主人はソーのかわいらしさがわからなくて、ヒーローとしては先日観た『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』のほうが好きなんだそうです。それは文化系男子による共感としての「好き」じゃないかしら……と思ったけれども黙っていました。
 キャプテン・アメリカの魅力は、もとは徴兵検査ではねられるほど体格にも恵まれないし体力もないのに、アースキン博士の研究によってマッチョさとパワーを手に入れたというところで、でもそれだと、欠点が克服されすぎていてつまらないんだよね。欠けているところといえば、それまでの人生での異性との縁遠さから恋愛エピソードの進捗がじれったいことくらい。
『アイアンマン』のトニー・スタークが魅力的なのはお金持ちで有能なひとなのにペッパーの気持ちがあんまりわかっていないところとヒーローをやるにはおっさんすぎるから。なのでヒーローにはなにか過剰なところと欠けているところ、両方必要なんじゃないかしら。
 ……とまあ、『アヴェンジャーズ』へ向けて関連映画を観るのも、残すところ『インクレディブル・ハルク』のみとなりました。むかしのエッセイや手記を読んでいると、映画の黎明期、まだTV放送がなくて映画がいまより身近な娯楽だったころ、つづきものの映画が楽しみだったという記述をよく目にするけれど、こんな感じだったのかなあと想像します。