いまひとたびの

 ひさびさに大学時代の友人たちと会うことに。
 そこにM田さんもいらっしゃるときいて、色めきたってしまった。M田さん! おなじクラスだったけれどひとまわりも年長で、物腰がいつも上品で、博識で、それに優しかったM田さん。え〜、卒業以来ご無沙汰していたけれど、またお会いできるの?!
 その報せを教えてくれたカゲロウちゃんの声も、電話のむこうで華やいでいた。
『そうなのよ! 私も、なんてギョウコウなのかと思ったわよ!』
 え、「行幸」? たしかにM田さんは宮家とゆかりがあるとかないとか噂だったけど、いくらなんでもそれは?!
 と思ったけど、そりゃあ「僥倖」だよね……。と、あとから気づいた。日常の会話で、行幸は、ない。でも僥倖も、たぶんない。それくらい、ひとをしずかに熱狂させる力をもつのです、M田さんは。
 

 しかし、けっきょく、M田さんは、お仕事の都合だとかで飲み会には欠席。お会いすることはかなわず。
 いまがいちねんで二番目くらいに忙しい業界にお勤めだってこと、忘れてましたよ。
「私、M田さんにお会いするからって、きょうは秘蔵の二千五百円のパンストを穿いちゃったわ」
 と自嘲するつもりでカゲロウちゃんに打ち明けたら、
「私も、結婚式の二次会用に買ったのを穿こうと思ったけど、パンツなんだから足首より下しか見えないじゃん! と自分を抑えたの」
 という返答。
 乙女の気合はパンストに顕われるわね。


 M田さんのまえでは、身だしなみもちゃんとして、心がきよらかで、前向きにお仕事にもがんばる、すてきな女の子でありたいんだけどなあ。
 でもそれって、お天道さまみたいじゃない? 「M田さんには、いまの私をお見せできないわ」って、己の弱さで挫けそうなとき、戒めにするの。
 美しくない振る舞いの、抑止力としての憧れのひと。ひとり、心に住まわせておくわ。