リペアのいちにち

 革のやわらかさがお気に入りの淡い青磁色のローファーがずいぶん褪色してしまったので、自分で色を塗り替えることにした。まずは下地がわりに白の靴墨(白いのに墨、っていうのがなんだかへんてこりん)。むらなくきれいにできて、下にべつの色が眠っているなんてわからない。
 行きつけのお店の定番商品のレーヨンのニットカーディガンは、着ているうちにでろでろにのびてしまうので(なぜそんなものが定番なのかわからないが、むしろ、それゆえに毎年売りつけられて、それで定番なのかもしれない)、店員さんに相談したら、「洗濯機で洗っちゃってください。縮みますから」という返事。ええ〜、いいの? と思いつつ試してみたら、ほんとうだった。夏物の洋服をいちまい再生できた。
 そのほか、日傘のリボンが毀れてしまったのを修繕したり、タオルをミシンで縫って雑巾にしたり、リペアに精を出したいちにち。
 どうして平日にそんな優雅なことしていたかというと、ふた月ぶりにお月さまが到来したから。
 かつては規則正しく、空のそれとおなじように満ちて欠けたわたしのなかのお月さまが今春から六十日周期になってしまって、最中の下腹部痛も十代に戻ったみたいに重い。仕事も休むことにした。
 休むことにしてから、あ、鎮静剤を飲めば痛みもおさまって、ちゃんと仕事に行けたんじゃ、と気づいた。あいだをあけると、どう対応したらよいのか忘れてしまうので、こまったもんだ。伊勢神宮がなぜ二十年ごとに式年遷宮を行うかといえば、二十年周期に繰り返せばお社や調度品をつくる技術を断絶させず次の世代に伝えられるから、というはなしをぼうっと思い出した(だから昭和天皇大喪の礼今上天皇即位の礼の準備はたんへんだったらしい、なにせ六十数年ぶりのことだったから)。
 おともだちのひとりも、ここ一年くらい六十日周期で経過しているらしく、
「卵巣って左右ひとつずつあるでしょう、もしかして、どちらかかたほうが物理的にどうにかなってるんじゃないかと思うの、怖くて病院に行けないんだけど……」
 とうちあけてくれて、どひーと震えたんだけど、診察のときドクターに訊いたら、
「そんなことあるわけないでしょ。卵巣を片側摘出したひとだってふつう毎月来ますよ。六十日周期みたいに間隔が長いのはホルモンが弱まっている所為」
 とのこと。
「でも、僕は生理は毎月きたほうがいいと思うんだよねえ」
「ですよねえ(鎮痛剤のこと忘れるし)」
 そんなわけで、周期を二十八日にするお薬を処方してもらった。
 おともだちには、ドクターのはなしを伝えなくては。
 それでいちにちオフだったので、ふだんできないことを精力的にこなした。平日のおやすみって、なんてすばらしいんだろう。私のホルモンが弱まっている理由はあきらかにふだんの仕事量が原因なので、とくにそう思った。
 来たら来たでうっとおしいけれど、月にいちどというサイクルはよくできているのかもしれない。そろそろひと休みして、ひと月で溜めたあれやこれやを見直しなさいっていうサイン。気持ちもひと区切りついて、またあしたからがんばろう、という気が沸いてくる。
 ローファーは、とりあえず白いままで履くことにした。夏らしくてじつによろしい。白に飽きたら、つぎの夏は、またべつの色にしよう。