久世光彦『マイ・ラスト・ソング 最終章』

 図書館で久世光彦の『マイ・ラスト・ソング 最終章』を借りた。「人生の最期にどんな曲を聴きたいか」なんていうテーマのエッセイを十幾年もまえから雑誌に連載していたから、久世光彦はずっと死なないような、もうすでに死んでいるような、ふしぎな印象のひとだったので、去年の春に訃報をきいたときは、びっくりしていいか納得していいかわからない、へんな気持ちがした。

マイ・ラスト・ソング 最終章

マイ・ラスト・ソング 最終章

 この本のなかで北原白秋の『雨』という童謡が紹介されている頁に、

 雨がふります。雨がふる。
 いやでもお家で遊びませう、
 千代紙折りませう、たたみませう。

 という活字の「せう」の文字のうえに、だれかのしわざでえんぴつで二重線が引かれ、その横に「しょ」と、訂正のように賢しらに、でもまずい筆跡で書き込まれていた。
 ひどいなあ。
 どこから非難していいのかわからない。ああ酷いものを見てしまった、と思った。