久世光彦『わが心に歌えば』

 同じ久世光彦の『わが心に歌えば』も、映画とそれにまつわる音楽とを紹介する、このひとのエッセイらしく、読んでいると歌いだしたくなってしまう危険な本だった。旧い映画の主題歌や挿入歌には見慣れないタイトルのものもあったけれど、気になるタイトルがあったらちょっと本をおいて、iTunes Storeで検索すれば、たいていの曲が聴けてべんりだ。『何がジェーンに起ったか?』は観たことがない映画だけれど、Bette Davisの"I've written a letter to daddy"を聴いただけで、これは怖い映画なんだろうとわかるもの。
『知りすぎていた男』の"ケ・セラ・セラ"は原詩も引用されていたので、歌ってみた。うろおぼえの外国語詩の唄を歌詞だけ見て歌うのって、つっかえつっかえでなにかに似てる、と思ったら、ピアノの練習で指がまわらないときだと気づいて可笑しかった。

When I was just a little boy,
I asked my mother what will I be
Will I be handsome, will I be rich
Here's what she said to me

 この曲なら持っていたはず、と自分のPCのなかの曲を検索すると、ドリス・デイの曲があった。でも歌いだしは"When I was just a little girl"で、"Will I be handsome"の箇所も"Will I be pretty"と歌っている。曲の性別が変わっている? と訝りながら聴きすすめたら、三番に、"Will I be handsome"の歌詞があらわれた。

 Now I have children of my own,
 They ask their mother "What will I be?
 Will I be handsom, Will I be rich
 I tell them tenderly

 つまりこれは、「わたしはかわいくなれるかしら?」とお母さんに訊ねたあどけない子どもが、こんどは母親になって自分の息子たちに、かつて母親に言われたのとおなじことばを答える、というストーリーのある曲だった。girlとboyの違いでひっかからなかったら、一生知らずに聴き流していたかもしれない。母親のせりふであるリフレインは、こう。

Que sera, sera
Whatever will be, will be
The future's not ours to see
Que sera, sera
What will be, will be

"Que sera, sera"の魔法の呪文みたいな響きに隠れがちだけれど、"Whatever will be, will be"も"The future's not ours to see"も、いい歌詞だ。

わが心に歌えば

わが心に歌えば