左手はそえるだけ

 きのう。サプライズ夏季休暇の最終日だったIくんが、夕食後いきなり宣言したことには、
「夏休みの終わりに『SLAM DUNK』を一気読みしたい。そうじゃないとぼくの夏は終わらない、終えることができない、そんな気がする」
 えー。スラムダンクって、名作であることを認めるに吝かでないが、いったい全巻で何十冊あるのよ。ただでさえ溢れそうな書棚が決定的に飽和状態になるじゃないのよ……と思い、
「スラダン*1ねえ。一巻のあたりはバスケ漫画だかヤンキー漫画だかわからない雰囲気なのよねえ」
「三井君とかもね。でも彼の『バスケがしたいです』は名シーンだよ」
「えっ、名シーンっていったらさ、ノーマークのメガネ君が3Pシュートを決めるところよ」
「木暮君はあのマンガのなかでは珍しくふつうのひとだったねえ」
「そうねえ。私の中学の同級生はなんでか牧が好きでねえ」
「高校生にはとても見えないよね」
「しかも黒いしね」
 ……と、ふたりして思い出話に花が開き、これはよい流れ! と、
「記憶だけでこれだけ話ができるほど憶えているのなら、わざわざ再読する必要なんかないんじゃないの?!」
 と言ったのに、
「それで絹子はだれが好きだったの?」
「えっと、藤真のチームメイトの眼鏡かけてた子。……あ、あれ、なまえなんていったっけ?*2
「これはぜひ全巻買ってきて確かめなければならないな!」
 これが『ONE PIECE』ならば「どーん!」というオノマトペが書き添えられているに違いない顔でIくんは宣言するや否や、ブックオフへと走っていったのでした。うう。説得に失敗……。
 そんなわけで、ただいま私も再読ちゅうです。
 初めて一気読みしたとき、自分が試合に出ているわけでもないのに、読んでいるだけで汗だくになったことだとか、鮮やかに思い出しました。
 たしかにこれは、夏の課題図書だわ。

*1:私の周囲では、連載当時そう略されていました。

*2:花形ですね。