寿退社

 勤務最終日。
「きょうのおようふくのテーマはなんなの?」と職場で質問をうけることがときたまあって、ああ、なんだかそこはかとなくコスプレっぽいかっこうになっちゃってるんだろうなあ、と。淡い色のタイトワンピースにカーディガンのときは「授業参観日のお母さん。サブバッグはハロッズ」、白いフリルブラウスに黒のロングスカートのときは「コーラス隊員(ソプラノ)」と答えてきた。
 きょうも複数人からそう訊かれたので、そのつど「寿退社です」と言ったら、すべてのひとに「そのまますぎる」とつっこみをうけた。だってさあ。オフホワイトのジャケットと同色のシフォンワンピースにエンゲージリングってさあ。ほかのどんな答えを期待したのかと。
 そしてさいごにおおきな花束をもらったので、「寿退社」っていうコントの扮装みたいになった。
 まがりなりにもほんとうの寿退社なのに、どうしてコスプレっぽく感じちゃうんだろう。自然が芸術を模倣するってこと?
 いまどき寿退社なんてまわりにするひとがいないから、コントのなかでしか見たことないということだなあ。
 花束は百合や薔薇やガーベラや睡蓮をとりまぜたマゼンタからピンクを経て白へのグラデーションで、まだ蕾のままの百合が幾本も混ざっている。
 百合の花粉って付着するとなかなかとれないってよく聞くでしょう? でも私がいままで自分のものにした百合はもう雄蕊の処理をしたものばかりだったので、夜、さっそく綻んだ花から葯をとったのが生まれて初めての経験だった。たしかにいちどふれただけで指がまっきいろに染まって、洗ってもなかなか落ちなかった。
 いまはまだ辞めたって実感がないけれど、この蕾がぜんぶ開いてそして萎れたら、ずいぶんさみしい気持ちが襲ってくるんだろう。