体内の海をゆく潜水艦

 ひと月弱ぶりに例のマッサージ屋さん*1へ。
 ここのマッサージは一風変わっていて、凝っているところをいきなりほぐすのではなく、まず表層の筋肉にマッサージを施してゆるめてから、筋肉の層の奥へ奥へと力を加える部分を変えていき、凝りのある層までたどりついてからほぐす、という手順を踏むのです。ほかのマッサージと違って、凝りの場所を捉える座標が三次元になっているといえばいいのかしら。
 表面をゆるめてもらったあと、自分のからだの奥から徐々にぼわわん……と、自分も知らなかったような凝りが浮かび上がってくるので、とてもふしぎな感じがします。
 それで、マッサージに身をゆだねていると、あるイメージが脳裏をいっぱいにするのです。自分の体が海になって、そこを、潜水艦であるマッサージ師さんの手が、徐々に徐々に深度を増しつつ探索しているような。
 でも私、これを伝えようとすると、ついでに「なにせ女は海ですからね!」などと口走って、相手をどーんとこまらせてしまいそうだから自重しよう……と思っていたら、マッサージ師さんがおもしろいことを教えてくれました。
 凝りって声を出すんですよ。
 筋肉をほぐしていると、奥の層のどこかから「こっちだよ」って声がするような感触があるんです。
 その声にひっぱられるような進んでいくと、凝りが見つかるんです。
 だから凝りの声を聞きながらマッサージをしているんです。
 ……あらっ。そういえば、潜水艦がなにかを探すときにつかうのもソナー、音じゃない? 音波を放ったあと、戻ったエコーを聴音して、どちらに、どれくらい遠くにそれがあるのかを探り出すんでしょう? それなら、私の想像もあながち荒唐無稽じゃないと思って、内心でふくふくしました。
 体内の海をゆく潜水艦。いつかランゲルハンス島にたどりつく夢を見る、のだわ。