いいなあそんな人生

 落語を観に行って来ました。春風亭正朝という噺家さんの独演会です。
 この独演会は毎年国立演芸場で行われるらしいのですが、ことしは会場を予約しそびれてしまったとかで、代々木公園にほどちかい、とある会社の会議室で行われました。
 行ってみたらば、とてもきれいでおしゃれなオフィス。会長さんがご厚意で貸してくださった、と紹介されているのをきいて、こんなすてきな自社ビルがあって、そうやって伝統芸能の芸人さんもちょっと手助けして、いいなあそんな人生……と他人事ながら思いました。
 さて、そんなわけで、観客席は会議室の椅子と折りたたみ椅子。高座は、会議室の机のうえにしつらえてあるのです。高さがあるのは見やすくていいけれど、座布団にすわろうとするとき、噺家さんの頭が天井を這うダクトすれすれ。
 落語のあいまの出し物の江戸曲独楽では、芸人さんが天井を見上げてうーんうーんと唸りつつ芸を披露。江戸曲独楽って、ようするに、扇子を開いたうえや、棒のさきなどで独楽をまわす芸なのですが、その天井の低さや高座の狭さという環境の悪さから、ものすごくはらはらする、そして演者と観客のあいだになにか一体感のようなものが流れる出し物になっていました。
 肝心の落語は、前座さんたち、若いひとも予想よりどーんとおもしろかったけれど、正朝師匠の二席は、やはり別格で、どっかんどっかん笑いが起きていました。複数の登場人物をひとりが演じ分けるわけだけれど、上手なひとがやると、せりふのひとつも口にしないでも、いま、役が切り替わった、とわかるのが、とてもふしぎです。
 演目は「厩火事」と「らくだ」。「らくだ」は、お酒を呑んでどんどん酔いがまわる演技が見所のひとつ、というのはおぼろげながら知っていましたが、いやもうすごかった。あとでまねしてみたけれど、とてもまねしきれるものではありません(あたりまえ)。
厩火事」は、髪結いのお崎さんが主人公。旦那に愛想が尽きた! 離縁したい! と仲人さんのところに駆け込んだくせに、旦那さんを仲人さんに悪し様に貶されるとむかっぱらが立ってくるお崎さんがかわいらしかったです。「髪結いの亭主」って、たしかそんな外国映画があったなあと思ったら、ヒモ状態の男のひとをいう、古いことばなんですね。
 着付けの復習の一環としてゆかたを着て行ったのですが、べつだん浮くこともなく。カジュアルめな和服でおでかけにうってつけだし、楽しいごらくだと思います(らくごだけに)。