清々しく嘲り笑うような

 ものすごい早い台風の日だった。それこそ風のように去って行った。朝方、主人を送り出した時間帯が、ちょうどこれからやってくるという頃合いで、これは、はたして午後からの仕事にちゃんと行けるかなあ、と危ぶみつつ二度寝して、目ざめたころには過ぎ去っていた。
 強風でも滅多に電車は止まらない沿線なのに、何時間か全線運休だったので、それで、たしかに台風が来ていたらしいと実感が持てたような次第。
 出掛けに見た、朝からの鉄道の混乱を報じるニュース番組のおわりに、都内の様子がうつしだされて、その有様にあんまり吃驚したのでよく確認できなかったけれど、あれはたぶん代々木公園あたりから見た新宿の高層ビル群だったろう。その頭上をびゅんびゅんと音がしそうなほどの速度で(ただし、もちろん画面上は無音で)たくさんの雲たちが一方向に流れていって、まるで原始か、文明なんていちど滅んだあとの風景のようだった。なんだかビル群が、屋根もとうに潰えた過去の遺跡の、ふぞろいに散在する石柱みたいに見えた。
 あんなに清々しく嘲り笑うような空模様をいままで見たことがない。嘲り笑われた、と感じたのは、ようするに私が文明側の、遺跡側の住人だからだったんだろう。