きよらかな死

 古代カルタゴとローマ展@大丸ミュージアム・東京*1
 展覧会のはしごです。ベルギー世紀末美術(id:moony:20091021#p1)と、紀元前に「地中海の女王」と謳われたカルタゴ。緯度も時代も違いすぎて食べ合わせが悪いんじゃないかしらと懸念したのですが、意外なところに共通点がありました。
 たとえば、スフィンクスフェリシアン・ロップスの同名の絵画には優美な怪物として描かれているのに、こちらに展示してあるスフィンクス像は、畏怖の対象、奥つ城の守人としての原始のスフィンクスです。ほんとうの死者の都、ネクロポリスから出土した副葬品もありました。なのに、その印象のきよらかなこと。エジプト神話の神々(カルタゴはいまのチュニジア、エジプトの隣の国なんですね)のちいさなちいさな立像をビーズの、なにごとのおわしますかはしらねども、ありがたい感じ。
 紀元前の死生観や信仰にまつわる美術品がこんなに清々しいものなのに、それから二千年ほど経て、幻想芸術のモチーフとして描かれる「死」が、あんなふうにこねくりまわし、もてあそぶ、イメージのひとつに成り果てるなんて、人類はゆっくりと堕落し、滅びの道を辿りつつあるのだなあと思いました。
(という、この発想じたいが退廃的なのかもしれないけれど)
 頭部も、腕も、裳裾から覗いただろう足の指先も失われた、「ヴィーナスだろうと推測される」という彫像が印象的でした。顔のない彫像がうつくしく感じられるのは、失われた大部と、残ったディティール、たとえば薄絹のドレープのこまやかさがアンバランスで心を惹くからじゃないかなあ。
 圧巻は、豪商の邸の中庭や浴室の床を飾ったという、大きな大きなモザイク画です。躍動感のある野兎や、無数の薔薇。このうえでかつてなされたのだろうそぞろ歩きや逢引き。
 上野の国立西洋美術館でも古代ローマにまつわる展覧会*2があって、こちらはポンペイにまつわる出品もあるそうです。気になります。