パンドラの匣

 来客用のテーブルウェアは、あこがれの老舗の定番シリーズをどれかひとつ決めて、少しずつ揃えることにしましょう。たとえば、最初の年はティーカップとソーサーのセットを2客ぶん。次の年は同じシリーズのティーポット、シュガーポットとクリーマー。その次はデザートプレート、というふうに。
 誕生日や、人生の節目節目の祝いごとなどの折に、お友達にプレゼントのリクエストを聞かれたら、「○○社の××というシリーズを集めているのよ」と伝えれば、相手はそのシリーズのなかから予算に合わせてプレゼントを選ぶことができます。
 また、その相手を自宅にお招きした際には、いただいたプレゼントでおもてなしをして、話題にひと花咲かせることもできます。
 ……というような、「ていねいに、生きる」系の雑誌にほだされたようなことを夢見ていたら、なんと、来週、主人の実家家族ご一行様が新居見学に来ることに。「気を遣わなくていいのよ、お茶だけ出してくれればいいの」と仰るけれど、おかーさま、うちにある茶器といったら、

  • 結婚祝いにいただいた某社の定番シリーズのペアマグ(しかしこのシリーズを集める気はない)
  • これも結婚祝いの耐熱ガラスのティーポット(手描きのステンシルの小花模様……)

 以上!! でした(はちみつ派だからシュガーポットとクリーマーもない!)。
 まさか紙コップでお茶を出すわけにも……。と、「あこがれの老舗の定番シリーズ」でとりあえず六客ぶん取り揃えようとしたら、概算要求の段階でゼロの数がすごいことになって主人により却下。ご近所のうつわ屋さんで物色したものの、よいなあ、と思える作家ものは六客ぶんの在庫がなく、なんかもう面倒くさくなって結局、折りよくアウトレットで大安売りされていた(つまり廃盤。メーカー公式サイトのカタログにも記載なし)ティーカップ&ソーサー&プレートのセットを購入しました。六セット買っても、「あこがれ」のオリエンタルティーカップ一客ぶんよりお安い。お買い物としてはお得なのに、なにか、すさまじい損をしたような気がする……。
 しかも、なんだか優等生的なデザインを選んでしまったので、いちおう数は揃ったけれど、おともだちが来たときにこの茶器でおもてなしするのは気が乗らないのでした。ふだんづかいにしているお皿のシリーズに、ちょっと癖のあるデザインのショコラカップがあるから、それも買ってしまおうかなあと、お買い物での飢餓感をさらなるお買い物で埋めるような考えが頭をもたげてきた始末。ああ、こういう際限のない物欲を封じるための「あこがれの老舗の定番シリーズ」だったのになああ。開いてはいけないパンドラの匣を開けたなああ。