吉兆

 お正月には、おきものを着て、主人と初詣に行くのが、ここ三年ほどの習慣です。
(二年前はまだ「主人」じゃなかった)
 変わったことといえば昨年から、初詣のまえに主人の実家に寄るようになったくらい。
 お参りを終えたら、露店をひやかして、これも初詣後のお決まりの、老舗の喫茶店に寄りました。
 そこで目についたのが、ファイヤーキングのマグ。店内のちいさな棚に、アンティークの茶器が並んでいて、そのなかのひとつがファイヤーキングだったのです。
 主人はここ数年ずっとファイヤーキングのマグをコレクションしたいと口走っていて、カタログを紐解いたり、ヴィレッジバンガードで物色したり、いろいろとしてはいるんだけれど、どうも「これ」という、コレクションのファーストマグにふさわしい一品になかなか出会えないのだそう。
 夫婦そろって、飾られているそのマグをためつすがめつしていたら、古物商だというひとが、このお店の棚を借りていて、それは商品なんです、お安くしますよ、と声をかけてきました。
 売り物のマグは、状態はとてもいいんだけれど、正直いってありふれた絵柄で、レア物ではなく、提示されたお値段は、値引きされたとしても、相場よりちょっとお高い感じ。
 どうするんだろうと主人の顔を見ると、しかし、すでに顔が「買う」モードでした。
 うん……。「ストーリーのあるものに囲まれて暮らす僕」が好きなひとなんだよね。知ってます。だから「ヴィレッジバンガードの鍵付き商品棚に飾られたマグ」よりも「一年にいちど、初詣のあとにだけ寄る老舗の喫茶店で、たまたま出会ったマグ」のほうが価値が高いのよね。
「元旦にこれが手に入ったというのは、ことしが良い年になるという吉兆だと思う」と、喫茶店からの帰り道、破魔矢とともにマグを入れた紙袋を提げて、にこにこしておりました。
 ことしもまた夫婦ともども、物欲に踊らされそうな予感です。