『不思議の国の少女たち 山本容子のワンダーランド』

「アリス」を連想させる名まえの展覧会。ちょうど映画も公開されるし、タイムリーだなあ、意外に商魂たくましいのだなあ埼玉県立近代美術館。と思っていたら、なんと、公開時期が重なったのは、まったくの偶然なのだそうです。
 ポスターに用いられている絵は例のお茶会で、展示のメインも『ふしぎの国のアリス』。ほかに、和風の「ワンダーランドの少女たち」が描かれている、『虫愛ずる姫君』や『竹取物語』といった平安の物語が題材の作品もあります。
 が、個人的に、いちばん印象深かったのは、新聞の連載小説の挿絵だという、夥しい数の小さな静物画でした。ごくふつうの家庭にある、なんでもない身の回りのもの……ブローチや、体温計や、バター飴や、ゼラニウムや、収入印紙や、靴紐や、指抜きや、風邪薬のエッチング。数百に及ぶそれらが、障子紙に貼られていたり、座卓の上に置いてあったり、桐箪笥の抽斗に入っていたり、和綴の冊子に綴じされていたりするのです。人物画はひとつもないのに、ひとの気配や、家族構成がうっすら立ち上ってくるよう。
"Jazzing"と題された作品たちは、絵のまにまに、"Fly me to the moon"や"Mona Lisa"、"When you wish upon a star"などの歌詞と楽譜の音符が描かれていて、その展示のある一帯にはBGMとしてその元の曲が流れて、いつまでもいたいような、すてきな空間でした。
 鉄道博物館に展示するため作成されたステンドグラスのうち、「銀河鉄道の弁当」という作品では、お弁当屋さんの名まえが「山猫屋」。『注文の多い料理店』を連想させて、くすりとさせます。
 この日はちょうど子どもむけワークショップのあった日で、展示室でのレクチャーちゅうに行きあたって混んでいたので、混雑を避けるため、美術館のなかにあるレストランで食事をしたのですが、公立施設内に併設の食事どころ、というイメージを覆す、予想外にすてきなお店でした。野菜のグリル、おいしかったー。美術館は公園のなかにあるので、レストランのオープンテラス席からは公園の芝生に寝転ぶひとや親子連れなどが見えて、ゆったりとした雰囲気でした。