十七年後の君が

 青空古本市で、岩波少年文庫版の『ナルニア国ものがたり』が全七巻のうち六巻が揃っているのを見つけ、大人買い
「子どものころに読み損ねていた児童文学を読もう」運動(id:moony:20100126#p1)は、あいかわらずつづいているのです。
 しかし、一冊だけ足りないのが第一巻の『ライオンと魔女』なので、まずはそちらを読まないとねーと思いつつ、帰宅して六冊をぱらぱらめくってみた。ページのあいまにカセットテープのラベルシールを発見。懐かしい! 栞代わりにつかわれていたのかもしれない。奥付によれば六冊とも一九九二年ごろに刷られたもので、短い期間に買い揃えられたらしい。そういえば、このころMDはまだ発売されたばかりだっけ。興にのって、ほかにもなにか挟まっていないか探したら、見つかりました、平成五年のかもめーるが。郵便番号が五ケタだわ、料金が四十一円だわ。そしてすこし気が咎めつつ文面欄に目を通すと、学習塾の中学一年生向け夏季講習のダイレクトメールでした。
 で、以下は、それらの断片から想像したこと。
 この本のかつての持ち主のKくん(宛名より判明)は十七年まえに中学一年生で、『ナルニア国物語』を一気読みしたり、CDをテープにダビングしたりして夏休みをすごしたらしい。そしてたぶん、夏季講習にはKくんは行ってない。ダイレクトメールがぴかぴかだから。
 それって。それって、いい中一の夏休みじゃないか。
 十七年まえに中学一年生というと、だいたい私と同世代。中学生のころ、どんなことを考えていたかなあと思いだしてみたら、おとなたちはバブル崩壊だ不景気だと叫んでいて、就職率も悪く、私が大学を出るころには景気も良くなっているかなあ、そうだといいなあと漠然と期待はんぶん惧れはんぶんに予想していた。でも実際には大学を卒業するころになっても就職氷河期だった。私たちの世代はおとなになることが薔薇色とは思えない苦しい世代でもあったけれど、そんなすてきな中一の夏休みを過ごしたひとだもの、十七年後のKくんが、いま、どこかでしあわせに暮らしているといい。と、ひととき、そう思いました。