綿婚式

 結婚記念日です。
 イタリアがテーマの隠れ家ふうホテルにお泊まりしてすごしましょう、と主人から提案がありました。汐留の近くの一画がイタリア街といって、イタリアの街並みを再現した建物が並んでいるんだそうです。
 ……私たちがつい先々月訪れた国がほんもののイタリアですよ? なのに、うそもののイタリアへ……? と 確認したら、あっという顔をしていたので、本気で忘れ去っていたらしい。
 でもうちの主人は中身が二十代OLなので、「自分へのごほうび」がホテル・ステイなので、おともだちからよい評判をきいたそこにお泊まりしたくてうっきうきなのです。
 私は三十代主婦だから、ホテル・ステイとかもう飽きた。温泉旅館で仲居さんに上げ膳据え膳されるのがいいな!!
 と思ったものの、結婚記念日は主人の誕生日でもあるので、ここは譲って、お目当てのホテルに泊まることに。そのかわり、夕ご飯は私の希望を優先して、フレンチでもイタリアンでもなく、新橋のやきとり屋さんになりました。
 ホテルのお部屋の窓から見える、雨に煙る東京タワーはきれいでした。
 画像がないのは酔っぱらっていて撮ることをこれっぽちも思い出さなかったからです。ひさびさに夫婦そろって焼酎だの日本酒だの、飲みすぎた……。しかし、11月22日に入籍したもうひとつの理由は、「飲みすぎても翌日はぜったい祭日だから」ですので、われわれ夫婦にとってこの結婚記念日の夜の過ごし方は正しい。
 あけて翌日。ホテルの朝食ビュッフェは、ほかのホテルのメニューとはすこしちがって、やはりイタリアンな品ぞろえでおもしろかったです。
 チェックアウトのあと、ちかくの浜離宮恩賜庭園へ。


 池のまんなかに浮かぶ古風なお茶屋が、借景として近代的なビル群を背負っているながめなど、ほかのどこよりも「東京」らしい、象徴的な風景のように思います。

 緑に呑み込まれるような東京タワーと高層ビルも、「第三次世界大戦後」風味。
 ここへ訪れるのは初めてという主人が、なにやらショックを受けていました。都内にこういう静かな場所があることを知らなかったらしい。それで、学生時代に当時の彼女をこういうところへデートに誘えば、すてきなひと! と思われて、なにか(なにが?)違ったのではないか、と激しい後悔の念が湧きあがったのだそうです。当時、どんなデートをしていたんだろう。でも、そんなことを私にいま言われたって、ねえ。困ります。ほんのりむかついてので、とりあえず「でも私は前彼とここにデートに来たことあるよ」と告げたら二の句が継げなくなっていました。
 結婚二周年というおちつきがまったく感じられない綿婚式。来年は温泉に行きたいなあ。