『大正イマジュリィの世界』

 イマジュリィという聞きなれないことば、「大衆的複製図像」と説明されています*1。ようするに、本の装幀や挿画、便箋や封筒、絵葉書の柄、あるいは広告ポスターといった印刷物を飾った絵や図案、というふうに理解しました。大正と冠されてはいますが、ざっくりと明治から昭和初期にかけての、そういったこまごまとした印刷物の展覧会です。
 以下、気になったところを箇条書きに。

  • 第一展示室に入った瞬間に目を惹かれた表紙絵は、竹久夢二によるもの。そりゃあ、すてきに決まっているというか、すてきと感じる回路がDNAに刻み込まれてるというか……。
  • 蕗谷虹児と橘小夢の、ビアズリィの影響を出発点にして、それぞれ違う方角の地平を目指してひた走った作品を見比べることができておもしろかった。
  • 資生堂のマッチ箱の図案が、かわいすぎ!
  • 橋口五葉による夏目漱石の本のデザインのなかに、「EX LIBRIS」という文字がはいった絵があって、おおっ!? と思いました。なぜならこのあとエクスリブリスの展覧会に行く予定だったから。
  • 西洋絵画の影響は明白なんだけれど、どこか江戸期までの文様の匂いもするような。でも、西洋絵画が浮世絵にも影響を受けたことを考えたら、ある種の先祖返りのようなものなのかも。

大正イマジュリィの世界―デザインとイラストレーションのモダーンズ

大正イマジュリィの世界―デザインとイラストレーションのモダーンズ

 ミュージアップショップで購入したこの本、図録かと思ったら、ISBNもあって、美術館の外でも入手できるようです。
 で、これが、すてきなの!! この展覧会の展示物はそもそも雑誌や書籍が多いわけなのだけれども、展示されているのを観て、よいなあ、と思った作品が、ただカタログ的に載っているだけではなくて、本の表紙絵や扉絵や挿画やページの空白のちょっとした飾りに、デザインとしてふんだんに流用されているのです。まるで展覧会じたいが本になったみたい。とくにこれは、と感じたデザインが目立つところにあしらわれていると、にやにやしてしまいます。
 松濤美術館は、中央部のまあるい噴水を囲むリング状の建物で、展示室もバウムクーヘンのひと切れのような弧を描いたかたちです。階段も楕円形で、さまよううちに出口を見失ってしまいそうな建物。