ルドゥーテと薔薇といつか挑戦する日

 将来ぜひ挑戦してみようと、かねがね心に決めているジャンルに、「ボタニカルアート」と「3Dデコパージュ(シャドーボックス)」があります。
(……どうして「将来」かというと、これらをやっている同年代のひとを見かけたことがないからです。消しゴムはんことか、マスキングテープでコラージュ、とかとは、あきらかに一線を画している感じなのだよなあ)
(ハワイアンキルトとは世代が隣り合っている気がする)
 そんなわけで、ボタニカル・アートの第一人者、ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテの展覧会に行ってきました。Bunkamura休館まえさいごの展覧会、「花の画家 ルドゥーテ『美花選』展」です。
 メニューのロールオーバー画像がレースを重ねた柄になるとか、やたらめったらかわいらしいデザインの特集サイトはこちら。
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/lineup/11_redoute/index.html
 ルドゥーテは18世紀のベルギーのひとで、1789年に王妃マリー・アントワネットの蒐集室付素描画家の称号を得、あのフランス革命を生き延びてジョセフィーヌにも仕え、のちにベルギー王妃となるオルレアン公女テレーズの植物画の先生を務めたのだそう。
 初期作品は、いかにも写真のなかった時代の、植物図鑑の挿画といった感じ。こまかな点刻銅版画に手彩色で色が塗られています。おおっと感心したのは、一種類の植物につき、二方向からの絵が銅版画で描かれていて、一方にだけ彩色してある作品。絵というより、紙面のどの写真をカラーにしてどの写真を白黒にするかといったようなデザインのような雰囲気でした。
 それが『バラ図譜』という薔薇づくしの図鑑の、香り立つような作品群からめくるめくようなクレッシエンドがはじまります。展覧会の名まえに冠されている『美花選』に至っては、植物図鑑というより、植物画のお手本集。さまざまな品種の薔薇をとりそろえたブーケや、椿、水仙、パンジー……と花の種類の垣根を超えたアレンジメントなど、学術的な役割の絵を離れて、ただ花の美を伝える絵へと、うつくしさ華やかさが頂点に到達しているのでした。
 展覧会場にはお花の香りが漂っていたり、薔薇をイメージしたドレスが展示されていたり、一般的な展覧会とは一線を画す、独特の雰囲気でした。物販コーナーも、ルドゥーテの絵のレプリカやポストカードといった、よくある展覧会グッズのほかに、お花のコサージュだの、お帽子だの、香水だの、美術館というより百貨店の一階的な品ぞろえ。
 ロココなピンクの表紙の図録を購入したついでに、フライヤーを複数枚、いただいてきました。ブーケの絵が載っていて、そこに文字がかかっていないので、コラージュ作品につかえないかしらと思ったの。
 と、そのとき、……あら? と脳の片隅にひっかかるなにかがあって、とりいそぎ帰路に。自宅の趣味部屋の、「将来ぜひ挑戦してみるもの入れ」と名づけた、いろいろなものを仕舞いこんでいる箱のなかを探ったらですね、


「書かれている数字の順番に絵を切り抜いて貼れば3Dデコパージュになるシート(ドイツ製)」が、おもいっきりルドゥーテの絵だった……。
 どうりで表紙の絵に既視感が拭えなかったわけですよ。
(しかもシートのどこにも、ルドゥーテのルの字もないのでした。そりゃあ著作権とかない時代のひとだけど。ドイツ人たら。意外と!! それとも欧州ではルドゥーテは名まえを書き添えるまでもない常識の域なの?)
 これはもしかして、「『将来ぜひ挑戦してみる』なんていってないで、とっとと挑戦しなさい」という、人智を超えた存在からのメッセージだったりするのかしらね。