恋愛を楽しむ回路
職場にて。昼休み、係長(四十代女性、既婚、二児の母)が読んでいる本が、『モテキ』なのに気付いて、びっくり。
係長は趣味が音楽、さいきん雅楽にも手を染めたというひとで、まあインドアなひとなんだけれども、コミックとかそういったサブカルチャー方面のひとではないので、どう考えても文脈的におかしい光景だったわけです。な、なんでまたそんなマンガを? と訊ねたら、主任(三十代男性、独身、バツイチ)が「さいきん大人買いしたマンガなんですけど、すごくおもしろいんですよ! 主人公に共感したんですよ!!」といって、係長に貸したらしいです。なんという、ほのぼのとしたお話。しかし男らしい男性が好きな係長は「フジくん気持ち悪い……」と渋面でページをめくっていました。
他人に本を読ませることはできても感動させることはできない、ということがよくわかるエピソードだなあ、と感じ入っていたら、
「主任もHくん(二十代男性、独身。職場の最年少)も、フジくんがまるで自分みたいっていうんだけど、男の人って、みんなそうなのかしら? こんなにマイナス志向なのかしら?」
と係長に訊かれたので、いやあ、全男性がフジくんみたいだったら、すでに人類は種として滅亡してるでしょうから、逆にフジくんみたいな男性ばかりではないという証左だと思います、と答えたのだけれど、納得してもらえたかどうかはわかりません。
というか、フジくんにちゃんと感情移入しようとして読みこんで、でもだめだったので、気持ち悪い! といってる係長の、まじめな姿勢に、私はとても感動しました。はたして、自分はこんなにまじめにフジくんのことを読みこんでいたかなあ。ものすごく早い段階で、感情移入はむりだと判断して、いつかちゃんや土井亜紀の、しあわせになりたいのに、しあわせから微妙に遠ざかることばかりしているさまにやきもきしてばかりいた気がする。
「土井亜紀はフジくんから離れちゃえば簡単にしあわせになれそうなのに、なんでまたあんなにフジくんに付き合ってるのか、なぞです」
と係長にこぼしたら、
「そりゃあ、フジくんのことが好きだから、離れられないんじゃない?」
と即答されて、目から鱗でした。そうだったのか! 私ったら、恋する乙女のきもちがぜーんぜんわかってなかった!
……私、恋愛がテーマの創作物を楽しむ回路が脳に積まれていないのかもしれないです。『モテキ』を楽しんで読むこと自体、根本的にむりだったのかも……。
それにしても、マンガの回し読みや感想の交換は、モラトリアムのころまでは頻繁にしていたけれど、当時は仲間内で「共感」の交換ばかりしていた気がします。大人になってからすると、みんな思い思いのことを感じていて、新鮮です。
(追記。表紙画像を並べてみると、すっぴんで一重瞼のいつかちゃん、二重瞼の小宮山さんのあいだで、「奥二重だけどアイメイクでがんばっている土井亜紀」の描き分けが行われているようで、ぞっとするようなリアルさがあるなあ。その、ぞっとする感じに惹かれて読んでいたのかなあ)
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