お花見の願望

 主人の実家が桜の名所のご近所にある関係で、まいとし、この季節は「お花見のまえに、うちに寄ってらっしゃいね」とのお声が、あちらの実家からかかります。お邪魔するとたいていお腹いっぱいご馳走してもらうはめになって、せっかくのお花見なのに、露店の買い食いが思う存分できないのが結婚して以来の悩みです。
 ……という話をほかのひとにすると、たいていの場合、「ばちあたり」といいたげな顔をされます。
 でも。たまには露店の、おおざっぱな味付けの食べ物でお腹いっぱいになりたいよー。衛生面には目をつむってさー……。
 そんなことを夢みていたら、祈りが通じたのか、ことしは実家ではなくて、近くのフレンチレストランでランチをいただきましょう、とメールが届きました。フレンチのランチコースなら、桜を眺めて歩きまわればすぐにお腹もすくはず。好機です。
 お舅さんの昇進の、ささやかなお祝いの席とのことだったので、春めいた、かつノーブルなふんいきの色のネクタイをお祝いに買い求めて、レストランへ。
 お舅さんはもうすぐ定年だろうから、さいごの一、二年だけの、はなむけとしての昇進なんだろうなあ……と内心で思っていたら(われながらひどい)、定年まであと四年もあったという衝撃の事実が判明しました。えーっと、じゃあ、お舅さん、おいくつなんだろう……(あとでこっそり主人に訊いたら、わからないということだったので、もっとひどいと思いました。肉親のくせに!)。
 メインはお魚を選び、パンもおいしかったけれどおかわりせず、と食べる量をセーブして、いざお花見、露店がつらなって賑やかな公園へ。
 主人には、「フレンチのあとに、露店?」と否定的な反応を、当初、されたのだけれど、「ぜーんぜんジャンルが違う食べ物だから、味の系統がかぶらなくって、却っていいわよ。というか私きょう、帰って夕ごはんつくる気ないわよ」と説き伏せたり、脅したりました。なにせ、協力者が不在だと、ひとりですべて平らげないといけないので、たくさんの品数を味わえるかどうかは、主人の姿勢にかかっているのです。
 結果、ふたりで、まず広島風お好み焼きを食べて、予想より内包された麺の量が少なくて物足りなく感じてたのでさらに焼きそばを食べて、それからフライドポテトと、シャーピンと、焼き鳥を食べました。
 ああ思う存分食べた。
 ほとんどでんぷんでお腹いっぱいになりながら、芝生にシートを敷き酒盛りをする人びとでいっぱいの公園内を見まわして、露店の食べ物で満腹になるという夢はかなったから、来年は、おべんとうをバスケットに詰めて本格的なお花見スタイルでしゃれこんでもいいわねえ……、とあらたな願望が浮かんできました。
 いやあそれにしてもどうして私、お花見なのに、食べることしか考えてないんだろう。六道でいえば餓鬼道に留まり、七つの大罪なら「暴食」におもいきり抵触している気がします。あといくつのフェーズを経れば、お花見にお花を観ようという気持ちがメインになるんでしょうか。それまでひとつずつ願望をクリアしていくしかないのかなあ。あ、ことしの桜は、週末になるのを見計らって満開になったかのような、去年、お花見どころではなかった私たちに二年分の「春とは、こういうものよ」を見せつけるような、それはみごとな咲きぶりでしたよ。