二月十四日の反省

 ヴァレンタイン・デイでした。
 主人は社外研修の日で直帰だったので、まちあわせして、夕ごはんはひさびさに、インドネシア料理。
(しかしビンタンビールも、バリハイもメニューから消えていて、これには主人ががっかり。あのうすーいビールを水のように飲みつついただくのがアジア料理の醍醐味じゃないのよねえ)
 二月十四日当日にオフィスに不在のため、義理チョコもなく、ことしは良かったねえ、という話題になりました。きょねんは義理チョコの数がすごいことになって、たいへんだったのです。
 もらったものにけちをつけるなんて、いやそもそも、もらった当人でもないのに横取りして食べておいて、すごーく下品だけれど、書いてしまおう。義理チョコ用の、ちまっとしたチョコレートって、おいしくないよね。これなら森永ガトーショコラのほうがよっぽどおいしいのに、というような、中途半端な味ばっかり。
 でも、いただいたうえには、ホワイト・デイにそれなりのお返しを用意しないといけないのが手間がかかって、私としては、負担で不満なのですよ。
 しかしもらった当人の意見はすこし異なりまして、
「ようするに女の子たちはみんなおなじ課のOくんにチョコがあげたいだけなのに、ひとりにあげると本命だと明白なのが厭だからって課の男子全員にチョコをばらまこうという、その料簡が気にいらない」
 のだそうです。
 あら、なんだか繊細な理由……。
 というか、Oくんはどんだけモテモテなんだと思いつつ、
「『義理チョコの名目で本命にチョコを渡す』というのは、どれくらい有効な手段なのかしら。偽装義理チョコをもらった、本命の彼は、うれしかったりするものなの?」
 と素朴な疑問をこぼしてみたところ、
「……まあ、くれた子は、自分のこと嫌いではないんだな、くらいは思うものなんじゃないでしょうか」
 視線を落としながら答えられた、それがあまりにも一般論、という響きで、
 ああっ! そういえばこのひと、中高一貫男子校出身なんだった!!
「義理チョコを偽装した本命チョコ」をもらった経験がないんだ!
 そりゃあ、Oくん狙いの女の子たちからのチョコに、憤慨するわけね!
 ……と、合点がいき、同時にひどくかわいそうになったので、フォローのつもりで、
「でも、大学生のとき付き合っていた彼女には本命チョコをもらったんでしょう?」
 と訊ねると、ますます下を向き、
「……大学の彼女とは、別れたっていうか、フラれたのが二月十四日だったよね」
「そ……それはつまり、『きょうチョコを渡さないっていうことは、私の気持ちはもう、わかるでしょう?』的な」
「そうです」
 ちっともフォローになってなかった。地雷を回避しようとしたのに本丸を打ち抜いたくらいの衝撃でした。
 ほろにがいとか、あまずっぱいとかを通り越して、しょっぱいエピソードを掘り当ててしまい、とてもとても、うろたえました。
 ああ、お腹の赤ちゃんが女の子として生まれてきたら、「ヴァレンタインに男の子をふるのだけはよしなさい」と伝えよう、と決意。だって、なんかなんか……かわいそうじゃないか!!
(というか、ヴァレンタインに限らず、のちのちまで日付がはっきり記憶されるようなイヴェントの日には、ということですね。クリスマス然り、あるいは相手の誕生日然り)
 ちなみに、私がことし主人に贈ったチョコレートは、ベルギーのショコラティエの手になるものだったのですが、パルコでてきとうに選んだせいか、おいしくなくて、がっかりしました(とうぜん、自分でも食べた)。横着しないで、伊勢丹まで買いに行けばよかった。いろいろと、反省点のあるヴァレンタイン・デイでした。