初めての

 娘、生後二ヶ月。
 初めての予防接種を受けに、ご近所の小児科へ行きました。
 さて、私は注射が嫌いです。
 どれくらい嫌いかというと、昔むかし、三十年以上もまえ、年子の妹の予防接種に付き添いでいっしょに連れていかれたときに、自分は注射しないくせに、診察室に入ったとたんに泣きだしたという逸話がありまして。
 また、このエピソードをなにかにつけて母が披歴するんだ、「妹ちゃん本人は注射されても泣かなかったのにね〜」って。もう軽く百回は聞かされたと思う。
 そのたびに、
「学習能力と危険察知能力が高い子だったということですよ…」
 と自己弁護しているのですが、まあ、三つ子の魂百までです。
 今回も、娘を膝に座らせて、注射する薬剤の説明を聞きながら、私がすでに涙目。
 ところが当の娘は、ちくっと刺されても、泣き声をあげない。
 あら? 叔母に似たのかしら? と顔を覗き込むと、きょとんとした顔が一転、ふんぎゃー! と泣きだしました。
 ……あっ、このひと、「ちくっと痛い」って生まれて初めて知ったんだ! それで事態を呑み込むのに時間がかかったんだ!!


 人が 「刺痛」を知る瞬間を 初めて見てしまった


 なかなか有意義(?)な経験でした。
 注射のあとは経口摂取の甘いシロップを飲んで、すこし機嫌がなおったのだけれど、夜、眠りながらきゅうにふんぎゃー! と悲鳴をあげているので、ああ、反芻している……きっと夢のなかで注射されてる……と母は寝顔を見守っていました。
 あと何回注射したら、診察室に入ったとたんに泣きだすようになるんでしょうか。