目標と欲望
「年頭なので、きょうは、ことしの目標を設定したいと思うんだよね」
とお雑煮を食べたあとに、主人が鼻息荒く発言して、その場合の『目標』とはつまり、
「TOEICで何百点以上のスコアをとる」
だとか、
「会社の昇進試験の準備を始める」
だとか、あるいは、
「体脂肪率を何パーセントまで落とす」
とかとか、そういうたぐいのものだったと思うのですが、それに答えて、つい、
「そうねー、ことしはまだ赤ちゃんづれになるからむりだろうけど、私の目標は、いつかクルージングの旅に行くっていうことだわ。東京から台湾を経て香港へ、十日かけて行って帰ってくるツアーとか、それなら子どもづれでも移動やパッキングが最低限で、楽ちんでしょ」
と、『目標』というより『夢』や『野望』と呼ぶべきものを考えなしに口にしてしまい、またこれが主人の心を激しく捉え、欲望に火をつけてしまったようで(うん、ステイ型のレジャーが好きっていうところが共通点だったから、結婚したの……)、あちゃー失敗した……と思ったときにはすでに主人は、ネット上にある近距離クルージングの旅行日程表の海へとダイヴしていたのでした。
そして潜水したまま浮上せず。
主人の一月二日の最終的な成果物は、
「クルージング専門の旅行代理店に資料請求したからね!」
……だそうです。
だから、ことしは娘がまだ赤ちゃんだから、行けないんだよ?
それに、目標設定どこいった。
そんなわけで、ことしの私の目標は、
「家族の向上心に水を差すようなことをしない」
です。
われながら余計なことを言ったなあ……と、いたく反省した次第です。
あと、いつになるかわからないその旅行のために、お金を貯めようと思います。